あるゲーマーからの手紙

食う 寝る 遊ぶ、にんげんのぜんぶ

令和桜に浪漫の嵐『新サクラ大戦』

 私は映画でもゲームでも基本的に何か新しいシリーズに手を出そうという時はなるべくシリーズの初めから見ていくようにしているのだが、時々うっかり出来心でいきなり最新作を見てしまうことがある。そしてその理由は毎回ほとんど変わらない。それはずばり予告編の出来である。「新規か古参かなんて知ったことか!黙って俺に着いてこい!」と言わんばかりの渾身の予告編は時に全くそのシリーズに興味が無く、購買層から外れた人間にさえ働きかける力を持つ。

 そんな力に当てられて私の某友人はドラクエ経験ゼロにもかかわらず『ドラゴンクエスト11』を買い、それから数年経って私は『新サクラ大戦』を買うことになるのだった。というわけで今回紹介するのはセガがまだソニープレイステーションに対抗して自社製のゲームハードの開発に躍起になっていた時代、アドベンチャーゲーム戦国時代とも言われる90年代に同社がシリーズ第一作を世に放ち、なんと10年以上の時を超えてシリーズ最新作として発表された意欲作、『サクラ大戦』である。

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<サクラ大戦とは>

 新サクラ大戦は前作『サクラ大戦Ⅴ』の発売から14年も経っているにも関わらずストーリーは前作と地続きであり、作中世界の独自設定なども改めて解説されることはないため、最新作の話をする前にその辺りについて軽く整理する。

 

 舞台は架空の日本の架空の時代”太正”、人類は異次元からの来訪者”降魔”による侵略を受けていた。世界各国は降魔の脅威に対抗するため、強い霊力を持った人間のみが操れる対降魔用兵器”霊子甲冑”を開発、その運用は秘密組織”華撃団”に託された。

 華撃団の使命は二つ、平時は「歌劇団」として人々の前でミュージカルを演じること、そして有事の際には霊子甲冑に乗り込み、「華撃団」として降魔と戦うことである。主人公はそんな華撃団の新しい隊長として着任し、メンバーの少女たちとともに悪と戦うこととなる。

 

 以上がシリーズの概要である。

察しのいい方はすでにお気づきかもしれないが、このシリーズを楽しむこつとしては必然性とか合理性とかいうことを考えてはいけない。普段は役者として真摯にミュージカルを演じる可憐な少女たちが一丁事あればごつい霊子甲冑に乗り込んで戦うということ自体に、そこにたった一人男の隊長が加わり背中を預けて共に戦うということ自体にロマンを感じられない人は逆立ちしてもこのシリーズを理解することはできないだろう。そんなシリーズの趣旨を理解したところで早速『新サクラ大戦』の内容に入っていこう。

 

 

<令和の時代に蘇るサクラ大戦>

 シミュレーションRPGからアクションに変わったことからもわかる通り、新サクラ大戦はあらゆる点で旧シリーズとは異なる作りをしているが、ストーリーの骨子は変わっていない。即ち女性ばかりの華撃団が新しい隊長を迎え、彼と共に年頃の少女たちが戦いの中で成長し、最終的には共に大悪を誅するという流れである。

 

 しかし、そういった古き良きストーリー展開を踏襲しつつ、今作はシリーズ最新作として極めて挑戦的な試みを行っている。それは今作の舞台が太正二十九年、『降魔大戦』と呼ばれる戦争の終結から十年後、そしてかつて存在した帝国華撃団解散から十年後の世界であるという点である。

 このことは本作の発表当初から強調され、多くのファンを動揺させた。それもそのはず、旧作の主人公といえば大神一郎であり、彼が育てた華撃団とそのメンバーはシリーズの顔である。その華撃団が解散した、それもシリーズファンをして聞き覚えのない”降魔大戦”とやらの終結と同時に、それは本作が単なる懐古主義による一時のリバイバルではなく、過去の作品も巻き込んだ正統続編であることを意味していた。

 

 一体旧帝国華撃団に何があったのか、降魔大戦とは何なのか、それらファンが最も気にする点はまさに本作のストーリーの最重要ポイントであり、本編を通して少しずつ明かされていく。そして恐らくそこがこの作品の評価を分けている点ではないかと思う。早速その話をしたいところだが、まずは本作に登場するメインキャラクター、シリーズの新しい顔として生み出された登場人物たちについて語らねばなるまい。

 

 

<魅力的な登場人物>

 ストーリーが単純な分プレイヤーを飽きさせないためには印象に残るキャラクターが必要不可欠、その点本作はキャラクターデザインの腕なら他のジャンプ作家と比較しても右に出る者はまずいない久保帯人氏の協力を得ている辺り抜かりがない。

 

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    メインキャラとなる主人公と帝国華撃団のメンバー。他にも各国の華撃団が登場する

 見た目のインパクトもさることながら、本作の登場人物たちは総じて好ましい性格の持ち主であり、それぞれの信じるもの、背負うもののために対立することもあるが、最終的にはわかり合い、協力し合えるようになることに何ら抵抗を覚えない程度には皆いい人たちである。

 まっすぐに夢を追いかけ皆を引っ張っていくさくら、そんなさくらがひるんだ時そっと背中を押す初穂、物語を愛し仲間たちを輝かせる脚本を作り出すクラリス、忍として華撃団を影から支えるあざみ、トップスターとして皆の手本となるアナスタシア、そして彼女らを束ね帝都を守る彼女らを守る神山。皆それぞれの領分で仲間のために尽くし、困難にぶつかりながらも諦めず立ち向かう彼らの姿は見ていて気持ちにいいものがある。

 また、弱小な帝国華撃団に代わって帝都を守る上海華撃団を初めとするサブキャラクターにも作り込みが感じられる。華撃団大戦という過酷な試練の中にあっても人々を守るという純粋な意志は皆同じであり、それ故に常に互いに敬意を払って全力でぶつかり合える、そんな各国華撃団のキャラクターには一見の価値があるように思う。

 実際キャラクターデザインが旧作から大きく変わって気にくわないという意見は聞くが、キャラクターの善良さについて否定的な意見はなかなか見当たらない。これは当たり前のようでなかなか得がたいことであると思う。というのも、キャラクターたちの性格が悪く、少しでも「こいつは不幸になって欲しい」という考えがプレイヤーに芽生えてしまったら、せっかくの大団円も素直に喜べないからである。ストーリーが単純だからこそこの点だけは外せない。

 

 

<あと一歩の踏み込み>

 キャラクターが作り込まれているおかげで最初から最後まで飽きることなくプレイすることができた本作だが、一方でストーリーに関しては若干の不満を感じた。

 例えばクラリスは重魔導と呼ばれる一種の超能力が使えるという設定で、本編ではその力を恐れて人前では使わないようにしているというシーンがあった。そもそも彼ら華撃団は彼ら自身に宿る霊力を使って霊子戦闘機を操っているという設定なので、いわば全員が超能力者のようなものであり、クラリスが人と違った能力のある自分自身を恐れるには単に超能力者であるという以上の動機が欲しいところである。例えばかつてその力で誰かに取り返しのつかない傷を負わせてしまったとか、そういう話が一つはさまっただけで説得力は大分増すと思う。

 

 もう一つだけ例を挙げるなら、あざみの忍者としての能力は師匠であり育ての親である八丹斎の指導によって身につけたという設定はよかったが、八丹斎とあざみにスパイ容疑をかけて逮捕しようとする華撃団連盟の刺客、彼らが余りに愚かであったことが残念に思えた。一度は神山をも拘束して連行しようとした連中の主張が「マスクをかけていて怪しいから」の一言で説明されているのはいかがなものかと思った。華撃団連盟の代表としてものを言うからにはもう少し容疑が固まってから行動に移してほしかった。

 

 その他にもこのゲームの主だった不満点は敵方に集約されていると思う。

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 本作の敵役、上級降魔の  朧        と        夜叉

かろうじてラスボスの幻庵葬徹には降魔王への忠誠というキャラ付けが成されていたが、朧や夜叉といった他の上級降魔たちは終始「悪そうな態度」をとって悪役ぶるだけでキャラクターとしての深みが足りなかった。

 特に朧などは無力な人間をいたぶって殺すのが楽しくて仕方が無いというような言動をとっておきながら、作中で彼が一般市民を殺戮するシーンは用意されていない。それどころか毎回”魔幻空間”と呼ばれる異次元空間に主人公らを閉じ込めてその中で戦うため、一般市民は巻き込まれようがない。これでは朧はただ口で悪そうなことを言っているだけのチンピラであり、ストーリー上で何度も戦いようやく倒したところで何のカタルシスも得られない。

 また、夜叉というキャラクターは見た目も声も旧作メインヒロインである真宮寺さくらの生き写しであり、発売前には本人なのかどうかとファンをざわつかせたキャラではあるが、やはり彼女もそれ以上の役割はなかった。真宮寺さくらの髪の毛から生み出されたデッドコピーという設定だったが、一体誰が何のために作ったのかは不明なままであり、見た目と声が真宮寺さくらという以外には何の特徴も魅力もないキャラクターになってしまった。セリフだけが悪役っぽくその雰囲気だけで場を持たせていたという点では朧と何ら変わらない。

 

 このように、悪役に魅力が無いのが本作の明らかなる弱点ではあるが、一方で旧作ファンへのフォローというか旧作へのリスペクトは十分だったように思う。特にクライマックスで主人公らが降魔王の片鱗と対峙したとき、闇を切り裂きどこからともなく現れた真宮寺さくらが倒れた仲間を復活させるシーンは手に汗握るものがある。天宮さくらにただ一言だけ伝えて去るあたりが実に粋だった。完全にフォースと一体化したジェダイマスターみたいになってた。

 

 

<まとめ>

 アクションゲームとしては荒削りな所も多々あり、まだまだ進化の余地を残してはいるが致命的にテンポが悪いということもなく、むしろアクションが苦手な人にはちょうどいい難易度になっていると思う。ストーリーもあと一歩踏み込みが浅いとはいうものの基本方針は間違っておらず、今後の発展が期待できる。

 きっとこれでも旧作ファンの一部は不満たらたらなのだろうが、もうそんなわからず屋のことは放っておいて存分に新たなサクラ大戦シリーズを作っていただきたい。そう思えるような若き意欲作であることは間違いないだろう。トレーラーを見て少しでも熱くこみ上げてくるものを感じたらぜひやってみてほしい。他では味わえないこのシリーズ独特のヒロイズムがあなたを待っている。

  
PS4『新サクラ大戦』ストーリートレイラー

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海の向こうで生まれた奇作『Undertale』

 ゲームをたしなむ人の何割かは確実にその手の人なのだろうが、筆者の友人にも海外産のゲーム、いわゆる”洋ゲー”のファンがいて、何度かその友人の誘いに乗ってその手の作品に手を出したこともあったのだが、そのほとんどは私の感覚に馴染むことなく棚の飾りとなっていった。

そのせいか、筆者はずいぶん長いこと海外産のゲームに苦手意識をもって避けていた。

 

 しかし、そんな筆者が誰に勧められるでもなく自発的に、あるいは運命的に手に取った作品がある。

それこそが今回取り上げる作品、アメリカの奇才Toby Fox氏が2015年に世に放ち、後に日本語版がPS4、Switch向けに発売され話題を呼んだ海外RPGの新境地、ご存じ『Undertale』である。

 

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 <ストーリー重視のレトロ調RPG

 海外勢の主な持ち味と言えば伝統的にはFPS*1、最近では広大なマップを自由に歩き回れるオープンワールドなどが流行したが、Undertaleはそのどちらにも当てはまらない。

昔ながらのドット絵で描かれたキャラクターたちがちょこまかと動き回るノスタルジックな雰囲気はむしろそれらとは対極にあるといっていい。

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 ではこのゲームの持ち味とは何か。まず第一にそれはBGMだろう。

このゲームの作者Toby Fox氏はもともと作曲の分野で活動していたこともあり、作中で使用されるBGMはどれも個性豊かで印象に残るものばかりだ。検索すればいくらでも出てくるだろうが、ここにもいくつかURLを貼っておこう。よかったら記事を読みながらでも聴いてほしい。

 

  Ruins : https://www.youtube.com/watch?v=QyPR77rg1to

  Snowdin Town : https://www.youtube.com/watch?v=z6LmMCuGjfA

  It's Raining Somewhere Else : https://www.youtube.com/watch?v=zNd4apsr3WE

 

 そして何よりも秀逸なのは魅力的なキャラクターたちが織りなす壮大なストーリーであるが、この作品の魅力を説明するにはそれだけでは足りないものがある。

言ってみれば本作にはそれを何重にもプロテクトし、一目見ただけではそれと気づかせない様々なトリックが仕掛けられている。それこそがこの作品が世間を騒がせた最大の理由であり、奇作たる所以である。

 

 <プレイヤーを手玉にとるトリック>

 まずこのゲームは主人公の名前を入力するといきなりゲームが開始される。

主人公がどこから来た何者で、何をしようとしているのかなどは一切説明されない

わかっているのは彼が禁域とされる山に踏み入った人間で、地底の世界へと繋がる大穴に落ちてここまで来たということだけ。それ以外は年齢や性別すら不明である。

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      名前を決定すると即座に右のような画面になり、操作が可能になる

 初見のプレイヤーがわけもわからずとりあえず先に進むと、暗がりの中に一角だけ光が差し込み、その中に顔のついた黄色い花がいるのがわかる。

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 近づくしかないので仕方なく近づくと、花は突然気さくに話しかけてくる。

           「ハロー! ボクはフラウィ

            おはなフラウィさ!

     「キミは・・・ この地底の世界に落ちてきたばかりだね?

       「そっか じゃあさぞかし戸惑っているだろうね

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           「それならボクが教えてあげよう

            「準備はいい? いくよ!

 

 するといきなり戦闘画面に切り替わる。白線の内側が赤いハートが自由に動き回れるスペースであり、プレイヤーの操作領域である。

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 しゃべる花、フラウィは続けてLVの説明を始める。

LVとは即ち「LOVE」のことであり、LVが上がるほど魂、即ちハートは強くなる。そしてこの世界ではLOVEを「なかよしカプセル」に詰めて贈り合うのが習わしであるという。

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 ここまでゲームに関する説明がほぼ皆無のまま進行してきたプレイヤーにとってフラウィの言葉は数少ない説明であるので、ついうっかり話を鵜呑みにしてしまう。これが最初のトリックである

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 ハートがカプセルの一つに触れた瞬間、鈍いヒット音とともに残りHPが1になってしまう。フラウィの顔は先ほどまでとはうってかわって醜くゆがんだ猟奇的な笑顔に豹変する

                「バカだね

           「この世界では殺すか殺されるか

        「こんな絶好のチャンスを逃すわけないだろ!

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  親切でフレッシュな仮面を完全に脱ぎ捨て、むき出しの悪意を晒して襲いかかるフラウィ。主人公を取り囲むように弾を配置し、狂ったように笑いながら徐々に包囲網を狭めていく。

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 プレイ開始から数分と経たないうちにいきなり絶体絶命の窮地に立たされた主人公、しかしそこに救いの手が差し伸べられる。

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 魔法の炎がフラウィを一蹴し、それを放った人物が入れ替わるように現れる。

それは全身ふわふわな毛で覆われた獣人の女性だった。

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 彼女の名はトリエル

地下世界の入り口、「ホーム」の遺跡の管理人を名乗る女性である。

彼女は毎日遺跡の大穴の底を見回っては上の世界から落ちてきた人間がいないか確認しに来るのだという。

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 トリエルはとても親切で主人公の面倒を見てくれるのだが、やはりここでも何故そこまで親切なのかわからないままプレイヤーはゲームを進めなければならない。

しかし、彼女はフラウィとは違い決して主人公を裏切らない。

それどころか襲ってくるモンスターをにらみつけて追い払ったり、主人公のために遺跡の奥の自宅でパイを焼いてくれたりと、まるで母親のように主人公を守ってくれる。

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        遺跡の奥にあるトリエルの家は温かな雰囲気に包まれている

 彼女は自宅に主人公のための部屋まで用意してくれる。

フラウィのこともあったので初めこそ多くのプレイヤーは彼女を信用するが、この辺りからもはや親切という域を超えている彼女の行動に、プレイヤーは次第に違和感を覚え始める。そこに早くも二つ目のトリックが潜んでいる

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           トリエルは主人公を元いた場所に帰す気はないらしい

 

 トリエルは本当の母親のように優しい。しかし、ここがどこで自分が誰で、主人公はこれから何をすべきなのか、彼女は何も語らない。得体の知れない優しさは時に不気味さを伴う

 主人公が家に帰りたいと言うと、彼女はおもむろにソファーから立ち上がり、用事があるのでここで待っているようにと主人公に言いつける。

後を追うと、地下室に繋がる階段を下りていく彼女の姿が見える。上の階の温かな空気とは裏腹に、地下の廊下は冷たく暗く、そこにたたずむトリエルの後ろ姿もそれまでの彼女とは雰囲気が違う。

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 この地下室には地底の世界のさらに奥へと繋がる扉があると彼女は言う。一度外に出たら二度と戻れないその扉を、彼女はこれから壊しに行くという。

 

      「もう二度と 誰もここからいなくならないように

        「いい子だからお部屋に戻っていなさい。

 

 彼女の真意がわからない以上、プレイヤーはさらに彼女を追いかけるしかない。

すると彼女はこれまで主人公と同じように遺跡に迷い込んできた人間たちの話をする。

 

      「ここに落ちた人間は皆 同じ運命をたどる・・・

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        「ここへ来て・・・ ここを出て行って・・・

            「そして死んでしまう。

 

 遺跡の外にはモンスターたちの国があり、彼らを統べる王、アズゴアによってこれまでの人間たちは皆殺されてしまったという。トリエルは二度と再びそんなことが起きないように遺跡に迷い込んだ人間を保護しようとしていたのである。

 トリエルは敵ではない。しかし主人公の目的が家に帰ることだとしたら、彼女の保護から抜け出す必要がある。そしてそのための手段を彼女はこれから破壊しようという。

結果として主人公はトリエルと戦わなくてはならないのである。

 

         「どうしても出て行くというのね・・・

      「そう・・・ あなたも他の人間たちと同じなのね。

          「なら残る手段は一つしかない・・・

           「私を納得させてご覧なさい。

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 プレイ時間にしてわずか三十分ほどの間に最も信頼のおける人物とのまさかの戦いにプレイヤーの多くは戸惑う。

実際筆者も戸惑った。どこかに分岐点があったのか、一体自分はどこで間違えてしまったのかとあれこれ考えたが、とにかく進むしかないと心を決めてトリエル戦に挑んだ。

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 しかし実を言うとこの時点でのルート分岐はない。というよりこの戦いをいかにして乗り切るかによって物語が分岐するといってもいいのだが、初見のプレイヤーは知るよしもない。

 主人公についての情報がほとんどない中ただ一つ目的と呼べるものというと「家に帰る」ということだけ。そして目の前にはそれを阻むトリエル、この状況で戦わないという選択をとっさにできる人間などほとんどいないだろう

 

 

<誰も傷つかないRPG(?)>

 ところがこの戦い、ある方法を使うと戦わずしてやり過ごすことができる。

というかこのゲームのほぼ全ての戦闘は敵を倒すことなくやり過ごすことができる。それが本作の大きな特徴であり、誰が呼んだか「誰も傷つかないRPG」とさえいわれている。敵を倒して経験値を獲得し、レベルを上げてより強い敵との戦いに備えるというRPG界不動のルールに真っ向から逆らうスタイルは多くのプレイヤーを驚かせた。

 そしてこの「敵を倒さずやり過ごす」というスタイルを最後まで貫き通すことができるか否かによって二周目以降のエンディングが変化する。それに伴ってストーリーも大きく変化し、一周目ではわからなかった各キャラクターの背景が詳しく描写される。登場人物は決して多くない本作だが、敵意むき出しで襲いかかってくるキャラが実は心優しい人物であることがわかったり、いい人に見えるキャラが実はとんでもない闇を抱えていたりと一人一人に重要な役割があり、作り込みが感じられる。

 

 全てのキャラクターを救い、全ての謎が解けて迎えるベストエンディングは格別である。とてもこの場で全てを説明することはできないしする気もないが、この上ない大団円であることは間違いない。

 

 しかし、そこで終わりならこのゲームがここまで有名になることはなかっただろう

全てのキャラクターと戦わずに迎えるエンディングがあるなら当然その逆も考えられる。即ち全てのキャラクターを徹底的に殺し尽くすエンディングも本作には搭載されている。全ての謎が解けたのだからもういいじゃないかと思うかもしれないが、これまた二周目までは考慮されていなかった隠し設定がこのルートで明らかにされる。そしてそれはこのゲームが始まったときの最初の疑問に大きく関わっている。そもそも主人公はどこから来た何者なのか、という問いである。

 

 

<フリスクって誰?>

 ベストエンディングが余りにハッピーな結末なのでプレイヤーは往々にして気にしないが、そのラスト付近でさりげなく明かされる新設定がある。それはこともあろうに主人公の名前である。ゲームの最初に名付けた「落ちた人間の名前」とは実は主人公の名前ではなかったということが明かされる。主人公の名はフリスク、最初にどんな名前をつけようが必ずフリスクである。

 

 大団円を迎えた今、そんなことは些末なことだとほとんどの人は思うだろうが、実はこの設定こそが皆殺しルートの存在理由となっている。皆殺しルートとはつまるところ主人公の体の本来の持ち主であった「落ちた人間」による逆襲である。

 

 ここで簡単に本作の設定を整理しよう。

かつて人間とモンスターは地上の世界に共存していた。しかし、モンスターが人間の魂を吸収することで圧倒的な力を手にするという特性が明らかになると人間たちはこれを恐れ、モンスターと人間の戦争が始まった。人間よりも体が脆いモンスターはほとんどがなすすべもなく殺され、生き残ったモンスターたちは地底の世界に追いやられた。人間たちは地上と地底を結ぶ道に巨大なバリアを張り、モンスターたちを地底の世界に封印した。それから長い年月が経ち、人間たちがモンスターの存在を忘れ去った頃、一人の人間が禁域の山イビト山に入り、地底の世界に落ちてきた。

 この最初の人間こそがプレイヤーが最初に名付ける「落ちた人間」である。

最初の人間は国王アズゴアの息子アズリエルによって発見され、国王の下で育てられた。アズリエルともすぐ仲良くなり、一家は幸せな時を過ごした。しかし、やがて最初の人間はモンスターたちの悲しい歴史を知り、彼らを救うために自らの魂を捧げる決意をする。バリアを完全に破壊するには七人の人間の魂が必要であり、最初の人間の魂を吸収したアズリエルがバリアを抜け、残る六つの魂を手に入れる計画だったが、恐らくアズリエルの意志により計画は未遂に終わる。アズリエルは魂を奪うことなく地底に戻って力尽き、最初の人間の遺体はトリエルによって埋葬された。一方、アズゴアは地底に落ちてきた人間を捕らえて残る六つの魂を手にいれることを国民に誓う。

 

 以上が本編開始までの大まかな流れである。

 

つまり最初の人間はモンスターたちを救うために行動を起こしたが、心優しいアズリエルは罪もない人間を殺して魂を奪うことをためらい、結果志半ばで倒れたということである。その遺体は主人公が最初に目覚めた場所に埋葬されたが、何らかの理由で再びその体に魂が宿った。それがフリスクである。

 

 フリスクは最初の人間の体を使ってモンスターたちと打ち解け合い、見事誰も不幸にすることなく彼らを救ってみせた。モンスターたちは地底から解放され、再び人間とモンスターが共存する時代がやってくる。

 しかし、そのことを祝福しない人物が一人だけいた。それが死してなおこの世に留まり続けた最初の人間、プレイヤーが名前をつけた「落ちた人間」である。

 この「落ちた人間」という呼び方はダブルミーニングになっていると思われる。「地底に落ちてきた人間」という意味と「堕ちた人間」という意味である。というのも、主に二周目で明かされる事実だが、最初の人間は他の人間たちを強く憎んでおり、仲が良かったアズリエルをして「立派な人間ではなかったかもしれない」と言わしめているほどである。

 これはあくまで推測だが、地底に閉じ込められたモンスターたちを救うため、というのもアズリエルを協力させるための方便に過ぎず、実際には自身の魂の力を得たアズリエルを利用して地上の人間を殺すことが目的だったのかもしれない。それぐらいのことをしてもおかしくないほどに皆殺しルートの主人公は残虐非道の限りをつくし、思わずプレイする手が止まるほどである。

 

 ともあれ、最初の人間はフリスクが自分の体を乗っ取って成し遂げた偉業を認めず、強力な「ケツイの力*2」を使って時間を巻き戻し、フリスクとそれに関わる全てのモンスター、即ちこの世界そのものに対する逆襲を開始する俺の体で俺よりリア充するなんて俺は認めない!

 とても二周目と同じ主人公とは思えないほどこのルートの主人公は凶悪であり、人間とモンスターの間の圧倒的な実力差を見せつけるように殺戮を繰り返す。そしてこのルートはある種のメタフィクションとなっており、最初の人間はしばしばプレイヤー自身と同一視されるフリスクって誰だよ、という突っ込みからそれは始まる。これはある意味RPGというジャンルに対する皮肉と考えられる。せっかく大団円を迎えたのに「もう一つエンディングがあるから」というだけの理由で全てをひっくり返して台無しにするプレイヤーに対して登場人物が直接毒づくようなシーンもあり、ゲームをやり慣れた人ほどその衝撃は大きい

 

 フリスクが主人公の物語だと思って三周目をプレイするとただのプレイヤーへの当てつけでシナリオ上の意味はないように思えるが、元々の体の持ち主によるフリスクへの壮大な嫌がらせと考えるとこの虐殺ルートも説明が付く。これもこのゲームの数あるトリックのうちの重要な一つだが、暗黙の内に最初の人間はいい人であったかのように錯覚させられるが、そんなことのためにケツイの力を使うほどに最初の人間は嫌な奴なのである

 

 

<まとめ>

 Undertaleは様々な意味で画期的な作品だが、その中でも特に光る特長がそのプレイ時間の短さである。RPGといえばシナリオ完走まで30時間、40時間は当たり前、甚だしいと100時間はかかるものまであるが、このゲームのプレイ時間は三つのルートを全てやってもせいぜい14,5時間程度であり、普段ゲームをあまりやらない人でも気軽に楽しめる。

 そしてその短さの割にストーリーの練り込みは目を見張るものがあり、一度プレイしたらその内容を忘れることはなかなかないだろう。強いて言うならクリア後の追加要素や収拾要素などのRPG的やりこみができないのがネックだが、そんなことは問題にならないほどどのルートも刺激に満ちている。是非とも他人の動画で満足せず自分の手で攻略していただきたい、そんな逸品である。

*1:一人称視点で進行するシューティングゲーム

*2:狭義にはセーブとロードを司り、時空を操ったり失った命を再び吹き込んだりとこの世界の理をねじ曲げる力で本来人間のみが持っている

生き残れ、答えはその先にある『地球防衛軍5』

 世の中には延々そのゲームだけをやっていられる中毒性の高い作品がいくつかある。どうぶつの森モンスターハンター、ダークソウル、人によってはポケモンなどもその類かもしれない。ジャンルを問わず様々な分野でそれらの作品は評価されており、それぞれ熱心なファンを獲得している。

 今回お話しする『地球防衛軍』シリーズもそんな作品の一つである。宇宙からの侵略者と戦って地球を守れ、という実にシンプルなテーマゆえに誰にでもおすすめしやすい本作、その見た目以上に奥が深い魅力に迫っていこう。

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<ルールは簡単、生き残れ>

 2003年に第一作目が発売された本シリーズであるが、初代から最新作までそのゲームシステムはほとんど変わっていない。即ちマップ上に大量に出現する敵を一匹残らず殲滅すること、本作の目的はこれにつきる。

 同じような構図のゲームとしては『三国無双』シリーズに端を発するいわゆる無双系ゲームが挙げられるが、地球防衛軍シリーズはそれらとは異なる進化を遂げた作品と言える。というのも、多くの無双系ゲームが最強の主人公で大量の敵を蹴散らす快感をその魅力としているのに対して、本作の魅力は一見勝ち目がないように見える絶望的な状況からの生還カタルシスにある。

 つまり同じように大勢の敵を一人の主人公が倒すという構図でもプレイヤーの感じる達成感の種類が違うのである。そのためこのシリーズでは「こんなの本当に倒せるのか!?」とプレイヤーに思わせる敵のデザインに力を入れている。

 

 

<プレイヤーを絶望させる仕掛け>

 本作の敵といえばまず巨大生物と相場は決まっている。

人間よりはるかに大きな体躯を持つアリクモハチなどの虫や 

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それらよりさらに巨大な怪獣

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負けじとさらに巨大化した超巨大生物などが登場する

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 さらに侵略者はこれらの生物兵器に加えて小型の戦闘ドローン巨大移動要塞、果ては巨大二足歩行ロボットなどの自律兵器を投入してくる。

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 主人公はこれらの敵をほとんど一人で倒さねばならず、圧倒的な物量差の戦いを生き延びなければならない。幸い弾数制限はないので撃って撃って撃ちまくればどんなに巨大な敵でもいつかは倒せる。絶望と希望の狭間で戦い続ける快感、地球防衛軍シリーズが人々をやみつきにする仕組みはまさにそこにあるのだろう。

 

 

<最新作の出来は?>

 シリーズの趣旨を説明したところで、ここからはシリーズ最新作『地球防衛軍5』をやった筆者の個人的な感想を述べようと思う。あくまで個人の感想なのであまり鵜呑みにしないように。

 

 前作『地球防衛軍4.1』は3の続編であり、人類がすでに一度侵略者を追い払った後であることが強調されていたのに対し、5は話を巻き戻し、人類が今回初めて侵略者と接触したという設定になっていた。

 そのため5の人類には地球防衛のノウハウがなく、特に序盤は敵の正体すらはっきりとわからないまま苦戦を強いられる。シリーズではすっかりおなじみとなった敵の輸送船や戦闘ドローンなどにいちいち驚き、一から攻略法を模索する防衛軍の姿はプレイしていて新鮮に感じられたが、一方で、特に序盤は四苦八苦する防衛軍を細かく描写するために無線のやりとりを増やしすぎてゲームとしてのテンポが悪くなっているのが気になった。長い無線のやりとりを全て聞いてからでないと戦闘が始まらないという場面が散見され、ゲームオーバーになってもう一度やり直そうとするとまた同じやりとりを聞かされるのは正直ストレスだった。

 

 また、無線の内容の出来にもむらがある。

防衛軍同士の通信の他に一般人に向けて放送されている報道番組を流すのは発表内容と現実の解離を感じられて良い演出だと思ったが、途中から主人公の専属になるオペレーターの無線通信は明らかに蛇足だった。若く元気な女の声が欲しかったのかもしれないが、素人がノリで作戦指揮の真似事をしているようで本作の絶望的な雰囲気に合っていなかった。度々ヒステリックに叫んだり味方に八つ当たりするシーンもあり、宇宙人よりこいつを先に殺した方がいいのではと思ってしまった。

 

 宇宙人といえば今作で満を持して登場した敵の宇宙人の出来は良かったと思う。

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これまで出てきた敵はどれも宇宙人の作った兵器ばかりで宇宙人そのものが登場したのは今作が初めてであり、知性を持った生命体らしく物陰に隠れたり、高い位置から狙撃してきたりと今までにないタイプの敵に仕上がっていた。

 一方でこれも無線の話だが、左の写真の宇宙人を「目が二つ、手足が二本ずつの人間に酷似した生物」として描き、防衛軍の中でも「人間を撃ったことなんてない!撃ちたくない!」というようなことを言い出す者まで現れるのに対し、右の写真の宇宙人を「人間とは似ても似つかない醜い姿」とするのはいかがなものかと思う。どう考えても右の方が撃ちにくい、というか右を躊躇無く撃てるなら左も撃てるだろう。

 

 また、筆者はプレイ中に前作を超えるラスボスのインパクトを5で出せるのかと心配したが、この宇宙人の登場に関連して今までとは全く違うアプローチで新しいラスボスを誕生させたのは評価すべきポイントであると思う。詳しくはネタバレになるので伏せておくが、オーバーテクノロジーとかいうレベルではないものがラスボスとして登場する。賛否両論あるようだが、私はいいと思う。

 

 

<まとめ>

 すでにD3パブリッシャー地球防衛軍6を発表しており、今後ますますの発展が期待される本シリーズであるが、難易度設定によって全くの素人からヘビーユーザーまで幅広く受け入れ可能である点や、シンプルかつ味わい深い作風も相まって万人に安心してお勧めできる作品であると思う。ただ間違ってiron rainを買わないようにだけ注意して欲しい。なぜって?それはね・・・