あるゲーマーからの手紙

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なぜベストを尽くしたのか『Kingsglaive Final Fantasy XV』

 FF15はとても他人に勧められるような出来ではなかったが、例え本編に手をつけなくともこれだけは見て欲しいというのが今回紹介する作品、映画『Kingsglaive FF15』である。

 

 筆者は本作を鑑賞する前の予習として、既存のFFシリーズの映画化作品『Final Fantasy』(2001)と『FF7:Advent Children』を見ておいたのだが、個人的にはそれらと比較しても本作の出来はNo.1といっていいと思う。

 FF15というシリーズの問題児の序章にしては贅沢すぎる本作の魅力について早速語っていこう。

 

 

<作品紹介>

 いつかの時代、どこかの世界に二つの大きな国があった。魔法を使う王家とその力に守られた臣下の率いるルシス王国と科学の力で強大な軍事力を手にした二フルハイム帝国。彼らは長らく敵対し、戦争状態が続いていた。

シ骸」と呼ばれるモンスターを使役することで圧倒的な火力と物量を得た帝国軍の猛攻により、戦況は帝国側に大きく傾いた。

 この事態に対処すべく、ルシス王レギスは「王の剣」と名付けられた特殊部隊を編成する。国内各地から呼び寄せられた若者たちに魔法の力を分け与え、兵士として戦場へ送り出したが、帝国側の有利は依然変わらず、戦いの激しさは増す一方であった。

 

 そんな中、帝国軍側から停戦が提案される。単身で王都インソムニアまでやってきた帝国軍宰相アーデンは王の御前で停戦に当たっての二つの条件を提示してきた。「インソムニアを除く全ルシス領を二フルハイム帝国の統治下に置くこと」、「ルシス王子ノクティスとテネブラエ王女ルナフレーナの婚姻」がその内容であった。

 

 一方その頃、王の剣の一員であるニックスは同郷の戦友であるリベルトを救うために上官命令を無視した罪を問われ、街のゲートの警備に回されて前線を退いていた。地上には巨大な城壁、上空には「魔法障壁」と呼ばれる巨大なバリアで守られた王都インソムニアは平和そのもので、王の剣としての命がけの戦いの日々が嘘のように思えた。

 

 しかし、彼がそんな一時の平和を享受している間にも事態は動いていた。ルシスの首脳陣は検討の末に帝国側の示した条件を受け入れ、すぐにも停戦協定が結ばれることとなった。

 壁の外から来た移民で構成される王の剣の面々は当然これを受け入れなかった。彼らの必死の戦いはひとえに自らの故郷を帝国に渡さないためのものであり、今まで散々自分たちをこき使っておきながら壁の内側が無事ならいいと言わんばかりの決定はニックスやリベルト、同じく同郷のクロウらにとって余りに残酷なものだった。

 

 戦争は終わり、王の剣は用済みになるかに思えたが、停戦協定の調印式を前にクロウに新たな任務が与えられる。その内容はルナフレーナの護衛としてテネブラエに迎えというものだった。

 ニックスとリベルトに見送られてクロウは一人テネブラエへと向かうが、その道中何者かがクロウを襲う。後日、変わり果てた姿になって戻ってきたクロウを前にリベルトは涙を流す。

 大切な仲間を失ったことでリベルトはニックスとは違う道を歩むことを決意する。

これからは俺のやり方で戦う」、そう言い残したリベルトは王の剣の紋章を破り捨て、王都へと消えていった。

 

 クロウの身に何が起きたのか、王の剣を抜けたリベルトの向かう先とは、そしてニックスやリベルト、生き残った王の剣全てを巻き込んだ更なる戦いの全貌とは・・・

 

 

 ・・・というのが本作の概要である。

 本作は冒頭の12分だけ無料公開されており、youtubeなどで見ることができるが、最初の戦闘シーンを見ただけでも過去二作とは一線を画する出来であることがわかる。

 王から授かった魔法の力で戦う王の剣の人間離れした能力を描きながら、それをもってしても抑えきれない帝国軍の圧倒的な物量を美しいCGで見事に表現している。ちなみにこのシーンで登場したミサイルを大量に射出するシ骸の名はダイヤウェポンといって、FF7に登場した同名のモンスターのオマージュとなっている。

 

 迫力のある戦闘シーンと過去作のオマージュはこの映画の大きな見所ではあるが、何よりも特筆すべきは登場人物たちの生々しい人物像にある。例えば移民で構成された王の剣は王の直属でありながら、軍人としての国家や王家への忠誠心などはあまりなく、各々の故郷が帝国の脅威にさらされていると思えばこそ結束しているに過ぎない比較的脆い集団として描かれているのが印象的である。

 主人公のニックスやリベルトも故郷とそこに住む人々を思えばこそ戦ってこれたのであり、停戦協定の報せとクロウの死をきっかけに二人が決別するシーンに王の剣の組織としての脆弱さが現れている。そしてそんな危うい人間関係の中にこそ彼らの人としての強さや真の絆が強調されるのである。

 

 実際この映画はルシス、テネブラエ、二フルハイムの三国に加えて、ルシスの反政府勢力や国をまたいで暗躍するスパイ、王の剣の裏切り者、ルシス王に恨みを持つルナフレーナの兄レイヴスなど様々な集団や個人が各々の思惑の元に行動するので、一回見ただけでは全てを把握しきれないかもしれない

 しかしながら、つぶさに眺めていくとそれら一つ一つに痛々しいほどの人間くささが詰まっていることがわかる。クロウを失い、守るべき故郷をも帝国に明け渡されようとしている中でリベルトがルシス王家に果たすべき義理など最早何もないし、家族を見殺しにされたレイヴスがレギスに恨みを持つのも誰が責められよう。

 そういった細かいキャラクター描写を見る度に再発見できるのがこの映画の最大の楽しみではないかと筆者は思う。

 

 

<本作最大の弱点>

 映像面、脚本面共に見所たっぷりで優秀な本作であるが、避けては通れない難点というか弱点があることは認めなければならない。そう、それはFF15』の前日譚であるという事実である。

 

 主人公ニックスがルナフレーナやレギスの意図を今ひとつ理解できずに苛立つ一方で、彼らの人としての誠実さに惹かれ、その意志を新たな守るべきものと認識していく過程が見所の一つである本作だが、続編のFF15本編のストーリーは到底その意志を継承しているようには見えない。詳しくは本ブログのFF15本編の記事を見てほしい。

 

 さらに筆者が戸惑いを隠せなかったのは、FF15ダウンロードコンテンツとして配信されたシナリオの中で本作の主要キャラであるリベルトが登場したことである。

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 追加シナリオでの設定によると、彼は各地からの義勇兵をまとめて王の剣を再編し、力のあるものの責任として暗闇に閉ざされた世界の民を助けているとのことである。さらにストーリーを進めていくと、ノクティスが真の王として覚醒するまでの10年間、彼ら新生王の剣が迫り来るシ骸からノクティスを守っていたとのことらしい。

 

 このシナリオはKingsglaiveFF15双方の設定を大きく無視した内容であることをここに強調しておこう。

王の剣の持つ力は指輪をはめたルシス王から与えられたもので、指輪をはめたノクティスはこの時クリスタルの中で眠っているので彼ら新生王の剣が力を与えられることはあり得ない。また、Kingsglaiveの中でリベルトはテロリストとして指名手配されており、とても新たな王の剣として人々を率いるような立場にはない。また、一度は王家を裏切り反政府勢力に加担した彼が突然ノクティスへの忠誠心に目覚めるのも違和感がある。

 

 このように、FF15の販促の一環として作られた本作であるが、肝心のFF15本編が全く本作の方を向いていないというのがこの映画の最大の難点といえる。

従って、この映画を鑑賞する上で必要なことはただ一つ、「完結編は今もって作られていない」と思うことである。エンディングの後に例の四バカが少しだけ登場するが、彼らが何者かということはあまり考えない方がいいかもしれない。

 

 どうしても気になるなら本ブログの記事を読んでからプレイを検討して欲しい。