あるゲーマーからの手紙

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令和桜に浪漫の嵐『新サクラ大戦』

 私は映画でもゲームでも基本的に何か新しいシリーズに手を出そうという時はなるべくシリーズの初めから見ていくようにしているのだが、時々うっかり出来心でいきなり最新作を見てしまうことがある。そしてその理由は毎回ほとんど変わらない。それはずばり予告編の出来である。「新規か古参かなんて知ったことか!黙って俺に着いてこい!」と言わんばかりの渾身の予告編は時に全くそのシリーズに興味が無く、購買層から外れた人間にさえ働きかける力を持つ。

 そんな力に当てられて私の某友人はドラクエ経験ゼロにもかかわらず『ドラゴンクエスト11』を買い、それから数年経って私は『新サクラ大戦』を買うことになるのだった。というわけで今回紹介するのはセガがまだソニープレイステーションに対抗して自社製のゲームハードの開発に躍起になっていた時代、アドベンチャーゲーム戦国時代とも言われる90年代に同社がシリーズ第一作を世に放ち、なんと10年以上の時を超えてシリーズ最新作として発表された意欲作、『サクラ大戦』である。

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<サクラ大戦とは>

 新サクラ大戦は前作『サクラ大戦Ⅴ』の発売から14年も経っているにも関わらずストーリーは前作と地続きであり、作中世界の独自設定なども改めて解説されることはないため、最新作の話をする前にその辺りについて軽く整理する。

 

 舞台は架空の日本の架空の時代”太正”、人類は異次元からの来訪者”降魔”による侵略を受けていた。世界各国は降魔の脅威に対抗するため、強い霊力を持った人間のみが操れる対降魔用兵器”霊子甲冑”を開発、その運用は秘密組織”華撃団”に託された。

 華撃団の使命は二つ、平時は「歌劇団」として人々の前でミュージカルを演じること、そして有事の際には霊子甲冑に乗り込み、「華撃団」として降魔と戦うことである。主人公はそんな華撃団の新しい隊長として着任し、メンバーの少女たちとともに悪と戦うこととなる。

 

 以上がシリーズの概要である。

察しのいい方はすでにお気づきかもしれないが、このシリーズを楽しむこつとしては必然性とか合理性とかいうことを考えてはいけない。普段は役者として真摯にミュージカルを演じる可憐な少女たちが一丁事あればごつい霊子甲冑に乗り込んで戦うということ自体に、そこにたった一人男の隊長が加わり背中を預けて共に戦うということ自体にロマンを感じられない人は逆立ちしてもこのシリーズを理解することはできないだろう。そんなシリーズの趣旨を理解したところで早速『新サクラ大戦』の内容に入っていこう。

 

 

<令和の時代に蘇るサクラ大戦>

 シミュレーションRPGからアクションに変わったことからもわかる通り、新サクラ大戦はあらゆる点で旧シリーズとは異なる作りをしているが、ストーリーの骨子は変わっていない。即ち女性ばかりの華撃団が新しい隊長を迎え、彼と共に年頃の少女たちが戦いの中で成長し、最終的には共に大悪を誅するという流れである。

 

 しかし、そういった古き良きストーリー展開を踏襲しつつ、今作はシリーズ最新作として極めて挑戦的な試みを行っている。それは今作の舞台が太正二十九年、『降魔大戦』と呼ばれる戦争の終結から十年後、そしてかつて存在した帝国華撃団解散から十年後の世界であるという点である。

 このことは本作の発表当初から強調され、多くのファンを動揺させた。それもそのはず、旧作の主人公といえば大神一郎であり、彼が育てた華撃団とそのメンバーはシリーズの顔である。その華撃団が解散した、それもシリーズファンをして聞き覚えのない”降魔大戦”とやらの終結と同時に、それは本作が単なる懐古主義による一時のリバイバルではなく、過去の作品も巻き込んだ正統続編であることを意味していた。

 

 一体旧帝国華撃団に何があったのか、降魔大戦とは何なのか、それらファンが最も気にする点はまさに本作のストーリーの最重要ポイントであり、本編を通して少しずつ明かされていく。そして恐らくそこがこの作品の評価を分けている点ではないかと思う。早速その話をしたいところだが、まずは本作に登場するメインキャラクター、シリーズの新しい顔として生み出された登場人物たちについて語らねばなるまい。

 

 

<魅力的な登場人物>

 ストーリーが単純な分プレイヤーを飽きさせないためには印象に残るキャラクターが必要不可欠、その点本作はキャラクターデザインの腕なら他のジャンプ作家と比較しても右に出る者はまずいない久保帯人氏の協力を得ている辺り抜かりがない。

 

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    メインキャラとなる主人公と帝国華撃団のメンバー。他にも各国の華撃団が登場する

 見た目のインパクトもさることながら、本作の登場人物たちは総じて好ましい性格の持ち主であり、それぞれの信じるもの、背負うもののために対立することもあるが、最終的にはわかり合い、協力し合えるようになることに何ら抵抗を覚えない程度には皆いい人たちである。

 まっすぐに夢を追いかけ皆を引っ張っていくさくら、そんなさくらがひるんだ時そっと背中を押す初穂、物語を愛し仲間たちを輝かせる脚本を作り出すクラリス、忍として華撃団を影から支えるあざみ、トップスターとして皆の手本となるアナスタシア、そして彼女らを束ね帝都を守る彼女らを守る神山。皆それぞれの領分で仲間のために尽くし、困難にぶつかりながらも諦めず立ち向かう彼らの姿は見ていて気持ちにいいものがある。

 また、弱小な帝国華撃団に代わって帝都を守る上海華撃団を初めとするサブキャラクターにも作り込みが感じられる。華撃団大戦という過酷な試練の中にあっても人々を守るという純粋な意志は皆同じであり、それ故に常に互いに敬意を払って全力でぶつかり合える、そんな各国華撃団のキャラクターには一見の価値があるように思う。

 実際キャラクターデザインが旧作から大きく変わって気にくわないという意見は聞くが、キャラクターの善良さについて否定的な意見はなかなか見当たらない。これは当たり前のようでなかなか得がたいことであると思う。というのも、キャラクターたちの性格が悪く、少しでも「こいつは不幸になって欲しい」という考えがプレイヤーに芽生えてしまったら、せっかくの大団円も素直に喜べないからである。ストーリーが単純だからこそこの点だけは外せない。

 

 

<あと一歩の踏み込み>

 キャラクターが作り込まれているおかげで最初から最後まで飽きることなくプレイすることができた本作だが、一方でストーリーに関しては若干の不満を感じた。

 例えばクラリスは重魔導と呼ばれる一種の超能力が使えるという設定で、本編ではその力を恐れて人前では使わないようにしているというシーンがあった。そもそも彼ら華撃団は彼ら自身に宿る霊力を使って霊子戦闘機を操っているという設定なので、いわば全員が超能力者のようなものであり、クラリスが人と違った能力のある自分自身を恐れるには単に超能力者であるという以上の動機が欲しいところである。例えばかつてその力で誰かに取り返しのつかない傷を負わせてしまったとか、そういう話が一つはさまっただけで説得力は大分増すと思う。

 

 もう一つだけ例を挙げるなら、あざみの忍者としての能力は師匠であり育ての親である八丹斎の指導によって身につけたという設定はよかったが、八丹斎とあざみにスパイ容疑をかけて逮捕しようとする華撃団連盟の刺客、彼らが余りに愚かであったことが残念に思えた。一度は神山をも拘束して連行しようとした連中の主張が「マスクをかけていて怪しいから」の一言で説明されているのはいかがなものかと思った。華撃団連盟の代表としてものを言うからにはもう少し容疑が固まってから行動に移してほしかった。

 

 その他にもこのゲームの主だった不満点は敵方に集約されていると思う。

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 本作の敵役、上級降魔の  朧        と        夜叉

かろうじてラスボスの幻庵葬徹には降魔王への忠誠というキャラ付けが成されていたが、朧や夜叉といった他の上級降魔たちは終始「悪そうな態度」をとって悪役ぶるだけでキャラクターとしての深みが足りなかった。

 特に朧などは無力な人間をいたぶって殺すのが楽しくて仕方が無いというような言動をとっておきながら、作中で彼が一般市民を殺戮するシーンは用意されていない。それどころか毎回”魔幻空間”と呼ばれる異次元空間に主人公らを閉じ込めてその中で戦うため、一般市民は巻き込まれようがない。これでは朧はただ口で悪そうなことを言っているだけのチンピラであり、ストーリー上で何度も戦いようやく倒したところで何のカタルシスも得られない。

 また、夜叉というキャラクターは見た目も声も旧作メインヒロインである真宮寺さくらの生き写しであり、発売前には本人なのかどうかとファンをざわつかせたキャラではあるが、やはり彼女もそれ以上の役割はなかった。真宮寺さくらの髪の毛から生み出されたデッドコピーという設定だったが、一体誰が何のために作ったのかは不明なままであり、見た目と声が真宮寺さくらという以外には何の特徴も魅力もないキャラクターになってしまった。セリフだけが悪役っぽくその雰囲気だけで場を持たせていたという点では朧と何ら変わらない。

 

 このように、悪役に魅力が無いのが本作の明らかなる弱点ではあるが、一方で旧作ファンへのフォローというか旧作へのリスペクトは十分だったように思う。特にクライマックスで主人公らが降魔王の片鱗と対峙したとき、闇を切り裂きどこからともなく現れた真宮寺さくらが倒れた仲間を復活させるシーンは手に汗握るものがある。天宮さくらにただ一言だけ伝えて去るあたりが実に粋だった。完全にフォースと一体化したジェダイマスターみたいになってた。

 

 

<まとめ>

 アクションゲームとしては荒削りな所も多々あり、まだまだ進化の余地を残してはいるが致命的にテンポが悪いということもなく、むしろアクションが苦手な人にはちょうどいい難易度になっていると思う。ストーリーもあと一歩踏み込みが浅いとはいうものの基本方針は間違っておらず、今後の発展が期待できる。

 きっとこれでも旧作ファンの一部は不満たらたらなのだろうが、もうそんなわからず屋のことは放っておいて存分に新たなサクラ大戦シリーズを作っていただきたい。そう思えるような若き意欲作であることは間違いないだろう。トレーラーを見て少しでも熱くこみ上げてくるものを感じたらぜひやってみてほしい。他では味わえないこのシリーズ独特のヒロイズムがあなたを待っている。

  
PS4『新サクラ大戦』ストーリートレイラー

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