あるゲーマーからの手紙

食う 寝る 遊ぶ、にんげんのぜんぶ

シリーズ世の中を考える 第二回”学校と塾”

 子どもはあっという間に大人になるというが、それは真理だと筆者は思う。

現についこの間生まれた乳児だと思っていた筆者の従兄弟も今や立派な幼児である。

 年のうんと離れた従兄弟というのは得も言われぬ親しみというかかわいらしさを感じるもので、以前は会う度にもううちでは用のないおもちゃやゲームソフトなぞを与えていたものだが、向こうも段々と目が肥えてきたとみえて、最近はあまり昔のものを与えても喜ばれない。

そんな従兄弟も来年からいよいよ小学生である。これから少なくとも9年は続く学校教育の階段を、彼はこれから登り始めるのである。

 

 小中学校での教育に関する思い出は筆者にもいろいろとあるが、中でも印象的だったのが先生方の学習塾に対する謎の敵対心である。授業中に余った時間で塾の課題などやろうものならすぐさま注意され、場合によっては没収からの職員室呼び出しのコンボまで食らった。

 

 学校の先生が塾を嫌う理由はいくつか考えられる。

  1. 生徒達の意識が学校から離れ、不登校やボイコットの原因になる

  2. 塾に通える経済的余裕がある生徒とない生徒の間で実力差が広がってしまう

  3. 塾の方が大抵学校よりもハイペースに授業を行うため、生徒が自分の授業を

   熱心に聞く理由がなくなる

  4. 塾によっては地域の学校の生徒向けの特別講座を開いており、手の内がばれる

  5. 学校の先生は日々授業以外の雑務に追われているが、塾の講師にはそれがない

    のが妬ましい

 

何分筆者は学校の先生にも塾の講師にもなった試しがないので、これらは全て生徒あるいは第三者の視点から想像したものに過ぎず、本当のところどう考えているかは聞いてみないとわからない。

 しかし、これだけは言える。

学校の先生が塾を目の敵にすることでよくなることなど何もない。生徒はますます学校に不信感を持つし、先生はただでさえ多すぎるストレス源*1を無駄に増やすはめになる。例えば中学時代の筆者を職員室に呼び出すといった無駄な仕事がそれにあたる。

 

 一方で塾の方も生徒の獲得に必死で、時に過激な営業に走ることも事実だ。

中間試験と期末試験が前期後期で2回ずつ、その期間だけ校門の前をうろつく不審な男を見たことはないだろうか。彼らは試験の結果に不安を感じる学生を狙って自分らの教室のパンフレットを配りに来る塾関係者たちだ。

ある時は「成績アップ間違いなし!」などと甘い言葉で学生を誘い、またある時は「苦手克服の最後のチャンス!」などと脅しにかかり、言葉巧みに学生を自分たちのフィールドに引き込もうとする。

 さらにたちが悪いのは入った後だ。

先述の学校ごとの定期試験対策講座もその一つだが、塾の基本的な姿勢として生徒の全学習活動をその中で全て完結させようとする傾向がある。

 例えば基本的な時間割の他に、特に英語が得意な人のための特別講座を設け、それに追加料金をかける。英語が得意な人が集まって授業を行うので、基本の内容を逸脱したより発展的な内容も扱うことができ、生徒は得意科目をさらに補強できる。

一見何の問題もないように見えるが、ひとつ考えてみて欲しい。

 

英語が得意な人が英語を勉強するのに塾の助けが必要だろうか。

 

 塾としてはより多くの講座を多くの学生にとってもらった方が利益になるし、教育産業の利潤追求の姿勢としては先の例は極めて誠実といえるだろうが、学生の側から長い目でみると得意科目の補強に塾を利用するのはいいことばかりではないように思える。

 即ち、塾のやり方でステップアップした学生はそのやり方以外の勉強法を経験する機会を奪われるということだ。塾の教育メソッドが洗練されていればいるほどこの傾向は強くなり、ただでさえ他者に依存しがちな思春期の少年少女への重大な影響が懸念される。

 特にうたい文句の通りに成績が急上昇した生徒などは危険だ。

塾の指導を信用するあまり、「勉強は一人でもできる」という当たり前の事実がいつの間にか頭から抜け落ち、学生でいる間中誰かに導かれなければ学ぶことができない人間になってしまう。最悪の場合、社会に出てからもその影響が残るかもしれない。

 

 断っておくと、筆者は塾に通って成績を上げようとすること自体を否定はしない。

ただ塾の立場から見たWin-Win関係とは必ずしも学生とのWin-Win関係ではなく、その学生の成績を案じ、実際に授業料を払う保護者とのWin-Win関係であることを念頭に置くべきだということである。

 塾講師の仕事はあくまで定期試験や入学試験で成果を出させることであり、それ以上でも以下でもない。それに熱中するあまり、もっと大切なことを忘れてしまうなどということを許してはならない。

 学校の先生たちは塾とそれに通う生徒を邪険に扱い、テキストを没収して職員室で説教をする余裕があるのなら、ついでにそういうリスクについて生徒に一言指導を入れても罰は当たらないのではなかろうか。

 これから人生最初の学生期間に突入する我が従兄弟が、その手の教育産業の落とし穴にはまらず健やかに大人になることを願ってやまない。

*1:クラスの問題児、モンスターペアレント、やる気の無い先輩教師、部活という名のサービス残業などなど