アインヘルヤル八闘士、彼らの目的は荒廃した世界にわずかに残された豊かな自然環境を徹底的に破壊し、バイルの下から逃れようとする人々の希望を打ち砕くことだった・・・そこまでで前回の内容は終わった。その続きから話していこう。
バイル軍は早速ラグナロク作戦を実行に移し、各地に部隊を派遣した。
彼らが具体的に何をするかというと・・・
・人工太陽を暴走させて土地を沙漠化させる
強力な日光を浴び続けるとダメージを食らう仕組み。建材なども乾いて脆くなっている
・大戦期のサイバーエルフ研究所からエルフたちを逃がす
正直何のメリットがあるのか微妙なところだが、単にゼロをおびき出すのが目的なのかもしれない
・空中要塞から天候を操作し、雷と酸性雨を地上にまき散らす
この要塞があともう少し大きくてパワフルだったらこれだけで全部間に合ったことだろう
・大戦期の街のセキュリティシステムを連鎖的に暴走させる
エリア・ゼロの集落は案外こういう所から物資を得ているのかもしれない
ラグナロク作戦というだけあって、あらゆる観点から地上を人の住めない場所に変えてしまおうという意志が感じられるラインナップである。乾燥してひび割れたコンクリートや、雲の上の湿った冷たい空気の質感が丁寧に作り込まれたドット絵から伝わってくるようである。
ちなみにアインヘルヤルはエインフェリアとも呼ばれ、北欧神話における選ばれし戦士の魂のことである。元ネタの北欧神話においてエインフェリアは戦いの中で命を落としても夕方になると復活し、それを何度も繰り返すことで戦士としての腕を磨くという。
これは一度ゼロに倒されたレプリロイドを再利用して戦わせるバイルの得意技を皮肉ったものなのか、あるいは毎回必ずラスボス直前に復活して再戦を仕掛けてくるロックマンシリーズ全体の伝統を皮肉っているのかもしれない。
ともあれ、ゼロはこれらの迎撃に成功、とりあえずは大事に至らなかった。
ところが、敵はその間にエリア・ゼロ内の人間の集落を発見してしまう。
ゼロが駆けつけるとすでに敵は集落の奥深くまで侵入しており、住民たちは囲まれて身動きが取れなくなっていた。ゼロは彼らを一人ずつ救出し、敵部隊を追い払う。
しかし、それでもまだ集落の人間はレプリロイドであるゼロを信用することができずにいるようだ。
ゼロは救出した集落の人々の中にネージュがいないのが気にかかっていた。どこか別の場所に隠れているかもしれない、そう思って探しに行った矢先、ゼロの前にクラフトが姿をみせる。今回の襲撃の指揮官はやはり彼だったようだ。
「・・・・ここにも彼女はいなかったか・・」
「お前も元はネオ・アルカディアのレプリロイドだったのだろう」
「人間のために戦ってきたお前が バイルの命令とはいえ
人間の集落を襲うというのか」
「・・・・そうだ」
「人間も・・レプリロイドも・・ もはやバイル様の下でしか生きることはできない」
「だが、それを理解できない愚か者たちが 我々に勝ち目のない戦いを挑んでくる」
妙に含みのある前口上の後、クラフトとの戦いが始まる。
ところでこのクラフト、妙に強い。
動きは素早く、火力も高く、間合いも慣れるまでは計りにくい。筆者はこのゼロシリーズは全作クリア済みであるが、4のクラフトが個人的には一番苦手だった。
彼の武器に注目してもらいたいのだが、サバイバルナイフを思わせる刀身が生えてくるライフル(つまりは銃剣)に、破片手榴弾を思わせる投擲物など、彼以外の敵のいかにもSFチックで未来的な武装とは裏腹に、どことなく現実の兵士の武装を思わせるデザインに仕上がっている。
バイルによる支配に正義などないことを知りながら、自分や愛する者を生き残らせるためならばそんな現実すら甘んじて受け入れる、そんな彼のリアリストな面が表現されたいいデザインであると思う。
やがてクラフトが膝をつき、戦いはゼロの勝利に終わる。
しかし、ゼロはクラフトの戦いぶりを通して彼の迷いを見抜いていた。
「お前の攻撃には迷いが見える・・ 本気で俺を倒そうとしていない」
「エリア・ゼロとこの集落は平和のための生け贄となってもらう」
「バイル様に逆らうことの愚かさを・・ 人間たちに知らしめるために!」
再び立ち上がり、戦いを続けようとするクラフト。ゼロもそれに応じて身構える。そこに割って入り、二人の戦いを止めたのは二人が探していたネージュだった。
彼女はバイル軍との戦いによって無惨に破壊された集落を指さし、戦争への怒りと悲しみを二人にぶつける。レプリロイド同士の戦いによる人間にとって避けがたい傷が、その痛みが今このエリア・ゼロに満ちていた。
それでもなお構えを解かない二人のレプリロイド。クラフトはネージュとの再会を喜びつつも、その目は未だゼロへの警戒を解いていない。
ネージュはバイル軍の兵士となって人間の集落を襲う目の前のクラフトが、かつて自分と出会った頃の彼のなれの果てであるとは信じられなかった。
「初めて取材したときのあなたは・・もっと誇り高い戦士だった・・」
「ネオ・アルカディアの戦士として・・ 世界を平和にしてみせるって・・」
「・・ああ、確かに約束した」
「だから俺はこうして君を守りに来たんだ」
なんとクラフトはネージュを連れてそのままどこかに転移してしまった。
シエルはすぐに二人の反応を追うが、その場には他にも一連のやりとりの目撃者がいた。集落の他の人間たちである。
「あの女・・ネオ・アルカディアのレプリロイドと知り合いだったのか・・」
「何が伝説のレプリロイドだ」
人間たちはクラフトと共に去っていったネージュを裏切り者とみなした。同時にゼロの正体を知り、人々は口々にその憎しみと悲しみをゼロにぶつけ始める。過酷な現実が弱い人間のさらに弱い部分を露呈させ、弱い彼らの最後の拠り所、人間としての尊厳すらも奪い取っていく。
「・・・・あ、ああ・・ あの女はレプリロイドの仲間だったんだ」
「危険を冒してまで助ける必要なんかないんだよ・・」
「ネージュを見捨てるのか」
集落を破壊され、ネージュが敵のレプリロイドと共に去ったことにより、人間たちの互いの信頼関係にひびが入った。このままネージュを見捨てれば、彼女が黒にしろ白にしろ、それまでのように理想を共有して団結することは難しい。ゼロにはそれがわかっていた。
「ネオ・アルカディアに残った人間たちと何も変わりはないと思うがな・・」
「ならお前たちは何のために危険を冒してまでネオ・アルカディアを抜け出して
この集落を作ったんだ?」
・・・だが、それは最終的には人間たちが決めること。ゼロは二人を見つけたというシエルからの報告を受けると、それ以上は何も言わずにその場を去った。
シエルは敵の前線基地にネージュが捕らわれていることをつきとめ、ゼロにミッションの説明を行うが、その胸中は複雑だった。例えネージュを救い出すことができたとして、今のままでは彼女に帰る場所はない。人間たちの不信感だけはゼロやシエルにはどうしようもなかった。
自分たちのやり方が本当に平和な世界に繋がるのか、そう疑い始めたとき、不意に司令室に外部からの通信が入る。件の集落の人間からの通信である。
「・・聞こえるか?ゼロ・・」
「・・やはり俺たちにはネージュを助けることはできない・・」
「俺たちは人間だ あんたたちレプリロイドのように強くはないんだ」
「だが・・あんたの言うとおり、ネージュを見捨ててしまったら」
「俺たちが集落を作る意味が無くなってしまう」
「バイルの支配を受けずに俺たちの力で生きていこうと決めたときから・・」
「ネージュは俺たちを何度も助けてくれたんだ・・だから・・」
「・・・・こんなことを言えた義理じゃないが・・」
「あんたたちがバイル軍の連中とは違うというのなら」
「 俺たちに・・ 人間に力を貸してくれ! 」
こうして、人間たちは再び互いに心を開き、ゼロはネージュを連れ去ったクラフトの下へと向かうのであった。
といったところで今回はここまで。セリフが多くて読みにくいかとも思ったが、誤解を避けるためになるべくカットなどはしない方針なので、ご理解いただきたい。
それでは各々方ごきげんよう