あるゲーマーからの手紙

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ゼロから始める名作 『ロックマンゼロ』~その14~

 ネオアルカディア跡地を狙う衛星砲台”ラグナロク”はゼロの活躍によってその機能を停止した。人々が戦いの終わりを実感し、これからの生活のことを考え始めたとき、それに待ったをかけるようにラグナロクの副砲が突然火を噴いた。

ここまでが前回の内容である。早速その続きから語っていこう。

 

 再起動したラグナロクには何者かによってプロテクトがかけられ、レジスタンスの転送装置ではアクセスできない。さらにラグナロクは加速して本来の軌道を外れ、エリア・ゼロに向けて落下する軌道をとる。

 もはや打つ手はないかと思われたそのとき、シエルらはネージュからある提案を受ける。それはネオアルカディア軍がかつて使っていた大規模転送基地を利用するというものだった。

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 かつてレジスタンスを苦しめたネオアルカディア軍の施設がクモの糸となるとは皮肉な話だが、そのわずかな可能性にかけてゼロは転送基地へと向かう。

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   どことなくロックマンDASHシリーズのリーバードを思わせる中ボス(画像右)

 転送回線を確保したゼロは続いてラグナロク側のプロテクトを解除しにかかるのだが、その方法が少し面白い。

ゼロの体や能力を全てプログラムで再現し、転送回線内を自由に動けるようにするというのである。その中でラグナロクまでの転送を妨害しているプログラムを探し出して破壊するのがゼロのミッションということになる。

 何のことやらと思うかもしれないが、つまりは下の画像のようになるということだ。

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要するにいつも通り目の前の敵を斬り伏せて進め、ということである。

 これの一体何が面白いかというと、ゼロシリーズと同時並行的に展開していたロックマンエグゼシリーズからの影響が見えるのである。

エグゼシリーズの舞台は、コンピュータの内部やその通信を可視化した「電脳世界」、そしてその上に成り立った「ネットワーク社会」であり、まさにこのミッションでゼロがやっていることを日常とする社会がそこでは描かれている。

 エグゼシリーズ自体はそれ以前のロックマンシリーズとの関連性はあまりないのだが、子どもたちに大いに受け、売り上げに大きく貢献したシリーズであるので、シリーズも四作目ともなると、全くといっていいほど関係ないゼロシリーズにもこの通り影響を及ぼすらしい。

 

 とにもかくにもゼロとシエルとネージュの働きにより、ラグナロクへの道は開かれた。後はラグナロクのエネルギーコアを停止させ、落下軌道から外せば地上は助かる。

しかし、何が潜んでいるかわからない上、誤ってコアを破壊してしまえばラグナロク本体の崩壊に巻き込まれて命はない。危険極まりないミッションである。

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 ただでさえ余裕のない中、例によって復活して襲いかかってくる八闘士。

時間制限は特にないが、実際にプレイすると何となく焦ってかえって時間を取られるポイントでもある。彼らとてラグナロクが衝突すればひとたまりも無いはずであるが、誰一人として自分の身の心配などしていないのが何とも不気味である。

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 そしてついにゼロはラグナロクコアにたどり着く。そこに待っていたのは、クラフトが放ったラグナロクからの最初の一撃で土地区画ごと蒸発したはずのドクターバイルその人であった。

       「ようこそ・・ 破滅のショーの特等席へ・・!

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          「・・生きていた・・? ・・違うな・・

            「死ねなかったのだよ・・!

 

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   「それとも・・ワシがレプリロイドなら戦えると安心したか・・?

     「・・残念だったな・・ これでもワシは人間なのだよ・・

       「・・こんな体でも・・ ワシは人間なのだ・・!!

 

 再び現れたドクターバイルの姿は変わり果てていた。頭部を覆っていたバイザーは砕け散り、左目の周辺は焼け落ちて機械部分が露出している。

100年前、妖精戦争の罪を背負ったバイルは改造手術を施され、再生能力を持ったアーマーにその身を封じ込まれた上でネオアルカディアを追放された。

その後100年間生かさず殺さず彼を封じ続けたアーマーは、ラグナロクの主砲の直撃からすらも彼を守った。一人の人間が背負うにはあまりにも重すぎる罪と罰が、100年という時間をかけて彼を人間という名の悪魔に変える。

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       「貴様らレプリロイドがこの地上で何をした!

 「機械人形のくせに自由をかかげ、遙か昔に戦争を始めたのは貴様らだろう!

         「貴様ら人間がこのワシに何をした!

   「正義などという言葉を吐き、このワシを追放したのは貴様らだろう!

    「ゼロ!貴様はそんなレプリロイド共を救おうというのか!?

          「そんな人間共を守ろうというのか!?

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        「レプリロイドの支配など生ぬるい・・!

       「人間の抹殺など一瞬の苦しみでしかない・・!

      「生かさず・・!殺さず・・!ワシと共に・・永遠に・・!

      「苦しみの歴史の中を歩き続けさせてやるのだ・・!

 

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        「愚か者共に逃げ場など無いということを!

    「豚共の居場所は・・このワシの下にしかないということを!

         「この・・ラグナロクを使ってなぁ!

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          「理想だと!? 戯れ言だ!!

 

 抑圧された怒りと憎しみを解き放つように言葉を続けたバイルは、やがてラグナロクコアと合体、破滅のショーの最後の仕上げとしてゼロを襲う。いよいよ最終決戦の幕開けである。

 バイル第一形態は岩や弾丸を飛ばす古典的な攻撃のほか、前作に登場した八審官を召喚して攻撃させるという技を持っている。前作で攻略済みとはいえ、大方のプレイヤーは今作をここまで攻略するまでの間に彼らの攻撃パターンを忘れている

そのため「見たことあるよこの技!」と咄嗟にリアクションはとれるが回避は出来ない、ということがよくある。しかもこの技の使用中バイルは無敵状態で、こちらが一方的に殴られるなかなかに憎い技である。

            「よみがえれ!我が僕よ!

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 ラグナロクコアと一体化しているからか、ステージの地表面からなにやらエネルギーを吸収して体力を回復する技なども印象的である。しかし、こちらは回復量も見た目の派手さもコピーエックスに軍配が上がるか。

     「力をよこせ!」         「もう許さん!」トゥロロロロロロf:id:CO2diffuser:20190816093447p:plain f:id:CO2diffuser:20190816094016p:plain

 

 そんなバイル第一形態、何が一番素晴らしいかというと散り際の一言である。

 

      さすがだなあ・・!英雄・・!!

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 前作であれだけゼロのことをオメガのまがい物呼ばわりしていたバイルがいうからこそ、他の誰よりも「英雄」という言葉がしみじみと染み渡る。もしかすると、そんなゼロとの戦いを一番楽しんでいたのはバイルなのかもしれない。

 

 爆煙をあげて砕け散ったバイル。その爆発によって外壁は破られ、周囲の配管がちぎれて波打っている。そしてその向こうにはみるみる近づいてくる地表面。ラグナロクはとうとう落下の瞬間を迎えようとしていた。

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 シエルは無線に向かって叫んだ。これ以上ラグナロクのスピードが上がれば、ゼロを地表に転送できなくなってしまう。だがゼロがここで退けば、エリア・ゼロはラグナロクの直撃を受け、今度こそ二度と自然は蘇ることはないだろう。

 さらに悪いことに・・・

 

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         「死ねん・・!この程度では・・死ねんのだ!!

 

 バイルは生きていた。彼は自分の命の終わりを自分一人で迎える気はないらしい。

自らの死を、苦しみと憎しみに満ちた生の終わりを、何とかしてそれ以上の意味のあるものにし、人々にその存在を刻み込むために、彼は再びこの世界に現れたのだろう。

 だが、ゼロはまだ諦めてはいなかった。バイルごとラグナロクコアを破壊し、本体をバラバラにすれば地上に被害を出すことなくラグナロクは燃え尽きる。

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 しかし、それは当然、ロボットが人間を斬る、その禁忌を犯すことをゼロがためらわず、そしてゼロ自身が生き残ることができればこその希望である。

シエルは必死にゼロの名を呼び、バイルはゼロに最後の揺さぶりをかける。

 

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 「レプリロイドたちの英雄である貴様が!人間を守る正義の味方が!

        「地上の人間を守るためにこのワシを・・

     「守るべき人間であるこのワシを倒そうというのか!

 

 ラグナロクコアと一体化したバイルの体に無数のパイプが接続されていく。人間でありながら人の心を失った者がさらにもう一歩、人間から遠い存在へと変貌していく。

ちなみにここのBGMは探してもオリジナル版が見つからなかったので、サウンドトラックのアレンジ版のURLを代わりに貼っておく。

    「Falling down」:  https://www.youtube.com/watch?v=5UNTW8hFcpk

 

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         「・・俺は正義の味方でもなければ・・

         「自分を英雄と名乗った憶えもない・・

       「俺はただ自分が信じる者のために戦ってきた

            「・・俺は、悩まない

          「目の前に敵が現れたなら・・

           「たたき切る・・までだ!

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             「・・・・・・シエル・・

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          終わらぬ悪夢だ!

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 バイル第二形態には制限時間がついており、120秒以内に倒せないとゲームオーバーになる。その上ダメージが通るコア部分は突き出た牙に守られており、牙が下に下りている時しか攻撃できない。画面全体をなぎ払うような攻撃も多く、もたもたしているとゲームに慣れた人でも普通に時間切れになる。

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 残り時間が少なくなると背景の地表面がどんどん迫ってくるあたりに作り込みを感じる最終決戦である。巨大な義体に頭部だけが露出したデザインはどことなく在りし日のシグマを彷彿とさせる。

 やがてゼロの一撃がバイルの頭部を覆うシールドを破る。

ラグナロクコアは今度こそ完全にその機能を停止し、ラグナロクはゼロをのせたまま崩壊を始める。シエルのゼロを呼ぶ声も、バイルのこの世の全てを呪う叫びも、全ては炎の中に消えていく。

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          「この・・ワシが・・・・ 人形ごときに・・!

    滅べえ!!滅んでしまえええ・・・・!!

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 地上から状況をモニターしていたトレーラーはやがてラグナロクの崩壊を確認、ミッションの終了を宣言する。

 しかし、シエルはその後も無線に向かってゼロの名を呼び続けた。応答はない。

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 そのとき、エリア・ゼロの上空は無数の破片に分かれたラグナロクの残骸が流れ星となって上空を彩っていた。人々はそれを呆然と眺め、やがて作戦が成功し、自分たちが生き残ったことを実感した。

 そして同時に、ラグナロクの崩壊の中で消息を絶った一人の英雄を思って、残された人々の心は悲しみににじんだ。いつも自分たちのために危険を冒して戦ってくれた頼れるヒーロー、これから始まる新しい時代を一緒に歩んでいくかけがえのない仲間、ゼロがもう帰ってはこないという事実を、美しい流星群は残酷にも物語っていた。

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      「俺たち・・・・・・これからどうすればいいんだ・・・・

 

 そんな皆の悲しみや不安をかき消すように、シエルは一人笑って言った。

 

    「大丈夫・・・・・・ ゼロは・・・・ゼロは・・きっと生きてる・・・・

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 それが今のシエルにできる精一杯のことだった。

人のいない丘の上で一人泣き崩れるシエル。その頭上にはまだ崩壊したラグナロクの破片が飛び交っていた。そのまま画面はスタッフクレジットに移行する。

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 なんとエンディング用のボーカル曲まで収録されている。元がGBA用ソフトとは思えないクオリティである。以下にyoutubeのURLをのせておくのでよかったら聞いてほしい。

     『Freesia』: https://www.youtube.com/watch?v=cUw9nRNAAd0

 

 エンドクレジットが終わると、シエルはおもむろに立ち上がり、未だ流れ星の降り止まぬ夜空を見上げて一人つぶやく。

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            「ゼロ・・ あなたは私を・・

           「私たちを信じて戦ってくれた・・

     「だから・・今度は私たちがゼロに応えなくちゃいけない・・

    「見ていて・・ゼロ・・ みんなを・・きっと幸せにしてみせるわ・・

       「人間とレプリロイドが手を取り合えるような・・

           「平和な世界を見せてあげる・・

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            「私は・・あなたを・・・・・・

         ゼロを信じてる・・・・・・!

 

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 ・・・以上で、ロックマンゼロシリーズは完結である。

 内容の大まかな解説を、と思って書き始めたが、まさかここまで長くなるとは思わなかった。しかし、長くなった分未プレイの人、ゲームに興味が無い人にもその魅力が少しは伝わるような記事にできたと個人的には思っている。

 ラストシーンに関しては解釈が分かれるところである。結局ゼロは生きて帰ったのか、それともラグナロクと共に燃え尽きたのか。

 

 生還説を推す理由はいろいろとある。

シエルの最後のセリフは遠いどこかにいるゼロに向けての言葉だろうし、もしゼロが死んでいたら余りに悲しすぎるという指摘もある。

 さらにゼロはX時代にも何度か行方不明になったり、死亡説がささやかれて後に復活を遂げたりしているので、この程度で死ぬはずがないというシリーズファン特有の指摘もある。確かに、X5で死んだものと思われていたゼロは次作のX6で割と普通に生きて帰ってきたし、そもそもX5の時点でコロニー・ユーラシアの衝突の際にユーラシアと共に大気圏突入したにも関わらず、無傷どころか覚醒してその後エックスとの死闘を繰り広げる余裕さえあった。

今作のゼロはコピーボディなので当時ほど頑丈ではないはずとはいうものの、こうしてみると生還の可能性は十分にあるように見える。

 

 ただ一方で生還することが話の展開上正しいことなのか、という意見もある。

ゼロはただでさえご老体である。以前も書いたが、もうとっくに引退していていいはずなのに、世の中がそれを許さなかったということも否めない。

ここでゼロが死ぬことによって初めて、残された人々は新しい時代に向けて自分の力で踏み出すことができるのではないか。そう信じていればこそ、ゼロは命を賭してラグナロクコアを破壊したのではないか、という話である。

 

 さらに大胆な説として、マザーエルフによって救われたという説もある。

前作で自由を手に入れ、いずこかへと飛び去ったマザーエルフ。彼女がその後どうなったのか、ゼロは彼女のことどう知っているのか、その辺りは結局最後まで明かされなかった。

それ故にこの説は魅力的で、妥当性があるように思える。2の最後でエルピスにしたのと同じように、ゼロはサイバーエルフとして生まれ変わり、「近くて遠い所」からシエルたちを見守っているという説である。

 

 いずれにしても、Xシリーズのテーマを受け継いだ後継作として非常に真面目に作り込まれた名作といえよう。惜しむらくはバイル役を演じた大塚周夫氏がすでに亡くなっていることだが、今からでも何らかの形でリバイバルされないだろうかと、筆者などは密かに思っている。

 

 最後に、この記事を読んで少しでもロックマンゼロの魅力が伝わったなら、筆者にとってこれ以上の幸せはない。

           それでは各々方、またどこかで