やはり思った通りにはいかないものである。しかし恐らく次回くらいで本当に最終回になると思う。長い長いお話も終わりの時を迎えつつある。是非とも最後までおつきあい願いたい。
ついにクラフト率いる八闘士を全て倒し、ラグナロク作戦を止めることに成功したレジスタンス。全てのミッションが終了し、エリア・ゼロの健在を確認したシエルは安堵の一息をつく。
そのとき、レジスタンスベースからトレーラーに通信が入った。オペレーターはいつになく慌てた様子でゼロとシエルに報告する。謎の巨大エネルギー反応が衛星軌道上に確認されたという。
オペレーターは強制割り込みが入って途切れ途切れの通信の中、その反応がエリア・ゼロの上空にあることを伝えた。割り込んできたのは言うまでもなく、ドクターバイルである。バイルは狂ったように笑いながらラグナロク作戦の真の姿を明かす。
八闘士の破壊活動はあくまで時間稼ぎ、ラグナロク作戦の本命は衛星砲台”ラグナロク”によるエリア・ゼロへの直接攻撃だった。
ゼロはすぐに自分をラグナロクに転送するよう要請するが、ラグナロクの正確な位置をつかめない以上、地上からはどうすることもできない。そんなシエルらを見てバイルはそのゆがんだ笑顔をますますゆがませる。
「ちっぽけな自然に群がるウジ虫共よ!泣け!喚け!叫べ!」
「そして・・絶望にまみれて・・滅びるがいい・・!」
最早打つ手なし・・・と思われたそのとき、もう一人男の声が回線に響く。
「いや・・滅びるのはお前だ・・バイル・・!」
クラフトの反逆により、ラグナロクの遠隔操作システムは破壊された。コントロールを奪ったクラフトは攻撃目標を変更、その照準はエリア・ゼロを離れ、バイルのいるネオアルカディア跡地に向けられる。
「ここにはワシに生かされている人間やレプリロイドがおるのだぞ・・!」
バイルはネオアルカディアに残った人々を盾にクラフトを牽制しようとするが、今更ネオアルカディアの住民を人質に取られてたじろぐほど彼の覚悟は甘くはなかった。
「お前のような人間に従うのが レプリロイドの正しい姿だというのか?」
「何もせず・・何も考えず・・ただ支配されているだけの一握りの人間のために・・」
「必死に生きようとする自然を傷つけるのが 正しい事だというのか!」
「違う・・! 俺は・・・・俺は・・・・」
「そんな人間のために・・ そんな奴らのために戦ってきたんじゃない!!」
クラフトは葛藤の末、ネオアルカディアに残る人々を切り捨てる道を選んだ。
人間のために戦い続けてきた彼だからこそ、ただ闇雲に目の前の人間を守ろうとすることが逆に世界の形をゆがめてしまうことを知ったのだろう。今まで自分が守ってきたもの全てを裏切ってでも、彼はゆがんだこの世界のあり方を正そうという。
しかしレジスタンスは、シエルは、ゼロはそれを許すわけにはいかない。シエルはすぐにレジスタンスベースに指示を出し、総力をあげてネオアルカディア跡地に残った人々を無理矢理にでも避難させるように言った。
そしてゼロはクラフトの反応を元に割り出した転送座標を元に、衛星軌道上のラグナロク内部へと向かう。これ以上悲惨な争いのために人々が血を流すことがないように、レジスタンスの最後の抵抗が始まる。
「・・シエル ・・最後まで諦めるな」
ゼロは急ぎクラフトのいる制御室に向かうが、限られた時間で暫定的に割り出した座標で転送を行ったため、着く場所は制御室から多少離れたところにならざるを得なかった。その間にラグナロクはエネルギーを充填し、あと一歩というところで一発目が発射されてしまう。
地上のシエルと連絡を取ろうとするが、無線からの応答はない。地上がどうなったか気になるところだが確認する術がない以上、ゼロに出来ることは先に進むことだけだった。クラフトとの最後の戦いの時が迫っていた。
誰にもその権利はない、しかし誰かがやらねばならない。堕落した人類に裁きを下す、その余りに高邁でそれ故に傲慢な行いを、彼は一人で成し遂げようとしていた。
いや、そもそもクラフトのような男がバイル軍に編入された時点でこうなることは決まっていたのかもしれない。いずれにせよゼロは彼を斬らねばならない。イレギュラーハンターとしてではなく、この世界に生きる一人のレプリロイドとして。
「・・わかっている・・ 俺のやっていることはバイルと何ら変わらんとな」
「だが・・俺はイレギュラーと呼ばれようと構わない・・!」
「誰かが・・道を誤った人間たちを裁かねばならないんだ!」
今度こそ正真正銘全力のクラフトとの真剣勝負である。エリア・ゼロでの戦いではなかった攻撃パターンが追加されているが、逆に言うとそれ以外目に見えてわかる変更点はない。
とはいえほぼ全ての攻撃が範囲攻撃なので強敵には違いないのだが、せっかくならファントムの時のように派手にいろいろ変えてくれてもよかったと個人的には思う。
重火器や粒子砲の飛び交う激しい戦闘の末、ゼロはついにクラフトに最後の一撃を振り下ろす。戦いは終わり、生き残る者と死にゆく者は最後の言葉を交わす。
「・・所詮俺たちは戦う事しかできないレプリロイドだ」
「世界を変えていくのは俺たちじゃない」
「シエルやネージュ・・ 今この世界で生きる人間たちだ」
「何もしようとしない人間・・ レプリロイドを恐れる人間・・
全てを支配しようとする人間・・」
「そんな人間のために・・・・俺や・・お前が・・レプリロイドが争い合い・・・・・・」
「大地や・・自然を・・傷つけていく・・・・・・」
「そんな世界の・・何を信じろと・・言うんだ・・・・?」
「人間とレプリロイドの共存を信じ続けたあいつとの約束をな」
「俺はあいつを信じる」
「そして・・あいつが信じ続けた人間を・・ 俺は信じる」
クラフトはゼロの言葉を聞いて、ネージュを最後まで信じることができなかった自分自身を悔やんだ。初めからネージュと共にエリア・ゼロに行っていれば、二人がこうして戦うこともなかったのかもしれない。
自分にはもうネージュに合わせる顔はない、そう言ってクラフトは自分のボディをこの場に捨て置いてほしいとゼロに言い残す。最後の瞬間、彼は人間とレプリロイドの未来を案じ、愛するネージュのことをゼロに託して逝った。こうしてまた一人、未来を目指す者が戦いの中で命を散らせる。
やがて通信回線が回復し、ゼロはシエルに事の次第を報告後、トレーラーに帰還する。一方、地上ではレジスタンスらによる救出作業が進められていた。ラグナロクによる砲撃の直撃を受けた中心部を除いて、周辺地区の避難が完了したとの報告が上がる。
人間の集落からも通信が入った。ネージュからの通信である。
ゼロはエリア・ゼロでクラフトと戦った時にネージュが言ったことを思い出していた。人間のため、自然のため、拠って立つものが違うだけでやっていることは二人とも同じ戦争に過ぎない。ゼロとクラフトの戦いは、結局あの時から何も変わらず進行し、ゼロの勝利とクラフトの死という結果だけを残して終わった。そのむなしさ、その悲惨さをネージュはずっと訴えていたというのに、結果は変わらなかった。
それでもネージュはゼロに礼を言う。もしゼロがいなければ、今頃はクラフトが第二のバイルになっていたことだろう。彼女はそれを誰より知っていた。
多くの犠牲を払い、戦いは終わった。
ネオアルカディアは名実ともに消滅し、バイルによる独裁の時代も終わった。残された者たちは皆自分の足で立ち、自分の頭で考え、わずかな自然と共に生き残る道を探さねばならない。それは「自由」という名の過酷な生存競争である。
本当にこれでよかったのだろうか、そんなことを考えてシエルが目を閉じた
その瞬間・・・
突如鳴り響く轟音と激しい振動がトレーラーを襲う。一度停止したはずのラグナロクが再び動き出し、副砲による射撃を行ったらしい。
バイルもクラフトもいない今、一体誰がラグナロクを動かしているのか。
続きは次回の記事に持ち越そうと思う。次回こそ本当に最終回。
それでは各々方ごきげんよう