前回はゲームの冒頭の紹介と簡単な背景説明を行った。
これだけではただの宣伝なのでそろそろ本題に入ろうと思う。
ロックマンゼロシリーズではその後4作に渡って目覚めたゼロとシエルたちレジスタンスの戦いを描いているが、その内容を語るにあたって避けては通れないのが本作以前のロックマンシリーズで何が起きたのかということだ。話せば長くなるがなるべくかいつまむし、一番面白い部分でもあるので根気よく聞いて欲しい。
<シリーズの行間>
初代ロックマン、ロックマンX、ロックマンゼロの三シリーズのストーリーは繋がっている。しかし厄介なのが明らかに続編なのだがシリーズの間で何があったか具体的には描写されないということだ。
例えば初代ロックマンは天才科学者ライト博士の作った家庭用ロボ ”ロック”が世界征服を企む悪の天才科学者ワイリーと彼に従うロボットたちと戦うために自らを戦闘用ロボ”ロックマン”に改造してもらい、世のため人のため戦うというのが主な内容だ。
その続編ロックマンXではライトとワイリーは既に死去しており、彼らの遺作であるエックスとゼロのイレギュラーハンターとしての戦いを描いた内容となっている。ゼロシリーズにも登場する”メカニロイド”、”レプリロイド”、”イレギュラー”などの概念は本作で生まれた。
ここで鋭い方々はすでに突っ込みを入れているかもしれない。
「初代ロックマンのロボットたちは人間のような心を持っていなかったのか」
「正義の心に目覚めてロックはロックマンになったのではなかったのか」
その疑問を解くにはやはり初代世代とX世代の間に何が起きたのかを論じる必要がある。
無論、初代ロックマンにも心はある。
でなければそもそも事の発端からして筋が通らない。ではX以降のレプリロイドと彼ら初代組の違いは何か。それはレプリロイドはもともと全てただ一人のロボット、エックスをもとにして作られたという点にある。
この事実はシリーズ初作のリメイク版『イレギュラーハンターX』において明確に語られている。同梱のOVA作品『The day of Σ』はYoutubeなどでも見ることができるので興味を持たれた方は見てみるのもいいだろう。
Xの時代にライトやワイリーに代わってロボット工学の権威として登場するケイン博士という人物がいる。レプリロイドを造って世に普及させた張本人であり、イレギュラーハンターの創始者でもある彼が、The day of Σの劇中にて彼の最高傑作にしてハンター総隊長シグマに向けてこう語る。
ケ「シグマよ、お前は悩む事があるまい。かつて私は封印されていたロボット、
エックスを見つけ出し、その設計思想を流用してお前達レプリロイドを
生み出した」
ケ「レプリロイドは人間と同じように考え、行動することができる。だが
思い悩むレプリロイドは、エックスだけだ。それはひとつの可能性な
のだが・・・」
シ「悩むことが可能性・・・欠陥ではなく?」
ケ「・・・普通はそうだな、シグマ。だが、思い悩むことがこれまでにない新しい
ロボットと人類の関係を生み出すのかもしれない」
ハンター内でエックスはシグマの部下だが、シグマもまたエックスを始祖とするレプリロイドの一人であり、ケイン博士はそのことをシグマには伝えている。そして彼の作ったレプリロイドは厳密にはエックスとは異なることを彼はここで明言している。
だが彼はドクターライトやロックマンについて作中で触れることはなかった。
さらに彼はエックスの設計思想を流用してレプリロイドを作ったと言っている。
このことから、ドクターライトが生きていた時代の「心を持つロボット」たちは何らかの理由で姿を消し、彼らの存在が忘れられた頃にケイン博士がエックスを発見し、一度は社会から廃絶された「心を持つロボット」に(意図してか否かは別として)一部変更を加えたものを再び世に送り出した、という流れが想定できる。
この「何らかの理由」についてはまた別の機会に詳しく論じてみようと思うが、恐らくエックスだけが持つ「深く思い悩む」という特性が関係していると思われる。
このように、直接的には説明されず、「状況から察するに恐らくこうなのだろう」というシリーズの行間のようなものがロックマンシリーズにはつきものなのだ。
筆者にはそれがただでさえ低いとはいえないシリーズの敷居をさらに上げているような気がしてならないのだが、製作に関わる人々は今も昔もその態度を改める気はないようだ。(それはそれでいいとも思う。)
<本編開始前の出来事>
何はともあれゼロシリーズの話に戻ろう。
初代とXの間に何が起きたのか具体的には説明されないのと同様にXとゼロの間の話もきわめて断片的である。先述のシグマの反乱を皮切りにイレギュラーはそれまでにない規模で連鎖的に発生し続け、シグマによって拡散されたイレギュラー化を誘発するコンピュータウィルス”シグマウイルス”の登場を決定打として、後に”イレギュラー戦争”と呼ばれるにふさわしい混沌へと世界は導かれてゆく。
だがやがてその混沌にも終止符が打たれることとなる。
ここで登場するのがゼロシリーズの重要人物のひとり、”マザーエルフ”である。
Xシリーズにはなかった”サイバーエルフ”という新しい概念の象徴的なキャラクターであり、またしても作中に詳しい描写はないが、Xシリーズにおいて主な問題となっていたシグマウイルスの根絶が彼女の力によって成し遂げられた。
その後ゼロはシグマウイルスが元々自身の持つ未知のコンピュータウイルスがシグマに感染し、シグマ自身の手で変異させられたものであることを知り、その脅威が二度と再び世界を脅かすことがないよう、自らを封印し眠りにつくことを選んだ。
(ゼロが持っていた未知のコンピュータウイルスとやらについて詳しくはまたいずれ)
こうしてイレギュラーの連鎖は断ち切られ、世界は平和になった・・・
・・・というわけにもいかない。マザーエルフがもたらす秩序に納得しないものがいた。
興味深いことにそれはシグマのようなレプリロイドではなく人間だった。
彼の名はドクターバイル、恐らくロックマン史上最狂のラスボスである。
彼は眠りについたゼロの封印を暴き、そのボディとマザーエルフを使って世界中のレプリロイドを支配する力を持つ最終兵器”オメガ”の開発に成功した。
オメガの力によって世界中のイレギュラーたちは互いに同士討ちをはじめ、急激にその数を減らしていった。後に”妖精戦争”と呼ばれるこの新たな戦乱はエックスとコピーボディにメモリーを移したゼロの二人によってオメガが倒されるまで続き、人類の6割、レプリロイドの9割がその過程で犠牲になった。
その後、エックスは残された人々を守るための新たな都、ネオアルカディアを作った。
オメガの残骸は二度と悪用されないよう衛星軌道上に隔離され、無惨に改造され”ダークエルフ”と化したマザーエルフはその強力すぎる力ゆえにエックス自らがそのボディを依り代としてネオアルカディアの奥深くに封じ込めた。
いかなる犠牲も厭わぬドクターバイルの徹底的なイレギュラー掃討によって世界は静かになった。だが当然ながら彼の行動は人々に受け入れられることはなかった。
やがてネオアルカディアの人々はドクターバイルの処分を決定する。
その内容は死刑でも終身刑でもなく、半永久的に肉体を再生し続けるアーマーに封じ込められた状態でのネオアルカディアからの永久追放というものだった。
ここで断っておきたいのはダークエルフを用いた戦争の早期終結を当時の人々が望んでいたのは事実であり、彼の行動も全くの独断とはいえないということである。
しかし失ったものはあまりにも大きく、その後になってあえてそのリスキーな計画を支持していたことを表明できる者などいるはずもなく、人々はドクターバイルに全ての罪を背負わせ丘を登らせることを選んだのである。
当然バイルがそんな理屈に納得するわけもなく、彼の憎悪はその後100年にわたって蓄積することになる。最狂のラスボスにふさわしい極めて闇の深い過去といえよう。
そして妖精戦争の終結を見届けたゼロは後にシエルが辿り着くあの研究所にて再び眠りにつく。二度にわたって戦禍の中心となってしまったことへの罪悪感からか、あるいは生き残った人間やレプリロイドたちに無用の不安を与えないためか、理由はいくつか考えられるが、これもまた英雄の末路としては寂しいものである。
エックスがダークエルフの守護のためにその身を捧げ、ゼロも再び眠りについた後のネオアルカディアを治めるべく、エックスの因子を受け継いだ四人の後継機が生まれた。彼らはネオアルカディア四天王と呼ばれるいわばエックスの子どもたちである。
左からハルピュイア、ファーブニル、レヴィアタン、ファントム。それぞれエックスの知性、闘争心、残酷性、忠義を受け継いだ(らしい)。彼らはわかりやすく言うと行政を担う官僚のトップであり、これに加えて八審官と呼ばれるレプリロイドたちが法の番人となり、立法の内特に重要な案件は直接民主制による投票で決めるという形に落ち着いた。
さて、イレギュラー戦争が伝説となった百年後の世界にやがて訪れたのは深刻なエネルギー危機だった。X時代から採用されてきたレプリロイドのエネルギー源、”エネルゲン水晶”がいよいよ枯渇しつつあるようだ。
エネルギー源がないなら動力機関を減らすしかない、ということでエネルギーを無駄遣いするレプリロイドは積極的に処分しよう、という気運が高まっていった。
ここでそれを後押しするのが”コピーエックス”の誕生である。
コピーエックスが作られた理由もはっきりとは断定できないが、作中のシエルのセリフからある程度推察できる。イレギュラー戦争や妖精戦争についての詳しい資料がほぼ失われたネオアルカディアにおいてもエックスは伝説のイレギュラーハンターであり、ネオアルカディアの創始者として人々に広く知られていた。
その信頼され度合いはほとんど信仰ともいっていい域であり、そのエックスが燃費の悪いレプリロイドをイレギュラーと認定すれば誰もそれを疑わないのでは、という狙いがあったと思われる。ゼロシリーズにおける”イレギュラー”という概念がX時代のそれと異なる理由はまさにここにある。
(余談だがコピーエックス第二形態は「悔い改めよ」だの「裁きだ」だのとことさらに自身のそういった素質を強調するセリフを言う)
そしてこのコピーエックスを作ったのは他でもないシエルである。
実は彼女もまた天然物の人間ではなく、特定の目的のために人為的に作られた遺伝子組み換え人間である。物語開始当初14歳であり、コピーエックスが生まれたのが5年前なので、彼女は9歳のときにコピーエックスを作り上げたことになり、その異常な能力の高さがうかがえる。
あるいは彼女の存在自体がライトとワイリー、ケインといったかつての天才たちがこの世を去った後の人々がいかにロボットと自分たちについて真剣に考えることを放棄してきたかということの象徴といえるのかもしれない。
シエルは設計者の期待通りの仕事をし、シエルの作ったコピーエックスもまた期待通りの役割を果たした。かくしてエックスが築いたネオアルカディアはそのコピーによって屍の土台の上にさらに屍を積み上げるディストピアへと変貌する。
いくら生まれつき能力が高くとも、9歳の子どもに物事の善悪など判断できるはずもなく、シエルは自らの行いがもたらした結果に深く後悔する。
そして処分を待つレプリロイドたちの一部を密かに解放し、彼らと共にネオアルカディアを去った。これがレジスタンスの始まりである。
・・・とここまでがXシリーズとゼロシリーズの冒頭までの間に起こった出来事である。
まだ本編の内容にはほとんど触れていないが、目が疲れてきたので今日のところはここまでにしよう。皆さんも画面の見過ぎにご用心