あるゲーマーからの手紙

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非業の名作『ロックマンX』

 ロックマンゼロの前身として以前には紹介までに止めたロックマンXシリーズ。

今回はその全8作にも及ぶシリーズについて詳しく掘り下げて語っていきたい。

ゼロシリーズに引き続き、ゲームを全くやらないという人にも魅力が伝わるような記事にしていくつもりなので、そういう人ほどぜひ読んでいってほしい。

 

 <ロックマンXとは>

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 1993年から2005年の間にカプコンから発売されたアクションゲームシリーズで、前身の初代ロックマンシリーズから一世紀ほどの未来の世界を舞台とする。

主人公エックスやその相棒ゼロを中心として人間に仇なすロボット、”イレギュラー”の討伐をその使命とするイレギュラーハンターたちの活躍を描いたSF作品。

 初代ロックマンに引き続き、倒したボスの能力の一部を獲得するシステムに加え、主人公エックスが身につける「アーマー」の種類によって様々な能力を開花させるなど、前作の特長を受け継ぎつつ常に新しい試みを模索する意欲的なシリーズといえる。

 

 そんな本シリーズの長い長いお話はあるレプリロイド*1の反乱に端を発する・・・

 

 <イレギュラー”Σ(シグマ)”>

 シリーズ一作目の敵”シグマ”は、レプリロイドの人間からの独立を訴えて蜂起し、以降何度も登場しては主人公エックスを苦しめるシリーズの代名詞的存在である。

 元々はイレギュラーハンターの優秀なリーダーであり、部下からの信頼も厚かった。そんな彼がいかにして人間に反旗を翻すに至ったか、まずはその話から始めねばなるまい。

 その時期を描写した数少ない作品として『The day of Σ』がある。

 『The day of Σ』本編   https://www.youtube.com/watch?v=KHUWk3PaMYA

 

このOVA作品はかつてXシリーズの一作目が新たに『イレギュラーハンターエックス』と題してリメイクされた際にゲームに同梱されていたものだが、このOVAを含め同作においてシグマに関する解釈がリメイク前とは大きく異なっている

 

 まず、リメイク前のシグマにとってエックスは取るに足らないB級ハンターの一人に過ぎず、その実力を軽んずるようなセリフが多く見受けられる。対して、リメイク後のシグマはレプリロイドのまだ見ぬ可能性を秘めた特別な存在としてエックスを見ていることがセリフにも現れている。

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    リメイク前のシグマのラストシーン。「お前ごときに」という辺りに侮りが感じられる

 

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   リメイク後のシグマ戦直前のセリフ。戦う前からその秘めたる可能性を認めている

 

 この態度の違いはどこから来るのかはOVAを見ればわかるのだが、リメイク後のシグマはエックスが全てのレプリロイドの祖であること、そしてエックスには未だに解明されていない部分があるということを、彼自身の製作者ドクターケインから聞かされている。

 そしてそのことは、シグマが反乱を起こした動機にも深く関わっているのだが、その前にシグマがかつてゼロと戦ったときに起こったことを話さねばなるまい。

 

 <ゼロと未知のコンピュータウイルス>

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 ゼロといえばロックマンXシリーズに登場するエックスの頼れる相棒であるが、そんな彼も過去においてはイレギュラーとして扱われていたことがあった。

 ケイン博士の命により、当時のシグマとその部下たちはうち捨てられたある研究施設の調査に当たっていた。ところがその最中、突如姿を現した謎の赤いイレギュラーの襲撃に遭って部隊は壊滅、シグマ自身も深手を負う事態となる。

 この赤いイレギュラーこそがゼロであり、このときに負った傷からシグマは未知のコンピュータウイルスに感染する。それは後に”シグマウイルス”となってイレギュラー戦争激化の触媒となるのだが、この時のシグマはすぐさまイレギュラー化して暴れ出すということはなかったため、どうやらこの「未知のコンピュータウイルス」の作用はシグマウイルスのそれとは異なるらしい。

 その違いにこそ初代ロックマンの時代とXの時代の間に何が起きたかを紐解く鍵であると筆者は睨んでいるのだが、その話はまた別の機会に詳しく語ろう。

 とにもかくにもシグマはこのコンピュータウイルスによって緩やかにイレギュラー化し、レプリロイドの人類からの独立を掲げて戦争を始めることとなるのである。

 

 ここで問題になってくるのが、レプリロイドのイレギュラー化とは単に頭が狂って暴れ出すことのみを指すのかどうかということである。

 

 <イレギュラーとは何か>

 これはXシリーズの続編、ゼロシリーズにも持ち越されるテーマであるが、Xシリーズにおいてもイレギュラー化の例は様々であり、その全てが「単に壊れただけ」とは断定できない。

 例えばリメイク版のイレギュラーの一人、スパーク・マンドリラーはこう語る。

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      「ただ シグマ隊長は間違ってない気がするんだよ

 

 一方、同じくリメイク版のイレギュラー、バーニン・ナウマンダーはというと・・・

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          「踏みつぶすのが大好きなんだよ

 

 二人はシグマの反乱に加わったという点では同じだが、その動機は大きく異なる。マンドリラーはシグマの主張に同調したから味方に付いたのに対し、ナウマンダーは自らの破壊欲求を満たすためにシグマの反乱を利用している。

 このように、一口にイレギュラー化といってもそれは結果に過ぎず、それに至る経緯は場合により様々である。

エックスが悩むのも無理のないことだろう。ナウマンダーのようなタイプばかりなら取り締まる側も遠慮無く戦えるが、マンドリラーのように穏やかなレプリロイドが心からシグマに同調してしまったらエックスとしてはやりにくいことこの上ない。

 その最たるものがシリーズ四作目に登場するレプリフォースである。

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 X4のストーリーは空中都市”スカイラグーン”の爆破事件から始まり、事件に関与した疑いをかけられたレプリフォースの士官カーネルが、イレギュラーハンターによる取り調べを拒否したことを発端としてレプリフォース全体がイレギュラー認定を受け、全面戦争に発展する。

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    左からカーネル、ジェネラル、アイリス。レプリフォース側の登場人物である

 

 このとき、カーネルは取り調べを拒否した理由として「軍人の誇り」という言葉を用いる。即ち無実の自分が武装解除してハンターのいいなりになるなどプライドが許さない、というのが彼の主張であった。

 イレギュラーハンターとしては人命がかかっている以上カーネルを逮捕するほかないが、レプリフォースの面々は続々とカーネルを支持し、ハンターとの対立構造が顕在化した。

 これを受けた最高司令官ジェネラルはレプリフォースの独立を宣言、レプリロイドのための新国家の樹立を目指す。

ジェネラルは独立に当たって人間との敵対を予め否定しており、各地で彼らの部隊が武装蜂起したのも宇宙空間にて建造中の彼らの本拠地が完成するまでイレギュラーハンターを牽制することが目的であった。

 

 即ち、レプリフォースの敵はイレギュラーハンターであって人類ではない。一作目とは異なり、X4のストーリーは完全にレプリロイド同士の争いの話ということになる。

精神に異常は無く、人間に危害を加えない彼らは果たして「イレギュラー」なのか、その問いに答える者はなく、ただ戦いだけが続いていく。それこそがX4のストーリーの魅力であり、本作をシリーズ最高傑作と呼ぶ者が多い理由であろう。

 

 しかし、残念ながら事実としてこのX4より後、X5、6、7と立て続けに評判が悪い。

それは何故だろう。いろいろと理由はあるが、今回は主にストーリーに関して分析してみようと思う。

 

 <シリーズの展開>

 最強のイレギュラーハンター、シグマの反逆から始まったこの物語はその後どのように展開したのか、ここで一度整理しておこう。

 X2の敵、カウンターハンターと名付けられた彼らはシグマを信奉し、イレギュラーハンターに反抗するいわば一作目の残党である。彼らの目的はシグマの復活、そして最大の敵であるエックスの打倒である。続編のストーリーとしてはほとんど陳腐と言っていいほどわかりやすい。

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       カウンターハンターらによってシグマは新たなボディを得て復活した

 

 X2のラストでボディを破壊されたシグマはその後コンピュータウイルスとして復活、しばし行方をくらませていたが、レプリロイドの科学者ドップラー博士によって発見され、ワクチンプログラムが作られる。

 ドップラーの功績によってシグマの脅威は去ったかに思われたが、後日そのドップラー自身がシグマウイルスに感染してしまう。イレギュラー化した博士はシグマの新しいボディを作り、シグマはレプリロイドとして二度目の復活を遂げる。それがシリーズ三作目、X3のストーリーである。

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  シグマウイルスによって洗脳されたドップラー博士は自らをも改造してエックスを襲う

 

 ドップラーが作ってシグマに与えた究極の戦闘用ボディ”カイザーシグマ”はエックスによって倒され、ドップラーは彼自身のボディを犠牲にしてワクチンプログラムを実行、中のシグマウイルス共々一網打尽にした。

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 ・・・はずだったのだが、なぜかX4にてシグマは何事もなかったかのように復活。上述のレプリフォースに無実の罪を着せ、イレギュラーハンターと戦わせる黒幕となる。

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     もはや正体を隠す気すらないらしい。ワクチンプログラムとは何だったのか

 

 その後もX5、6、7、8とシグマは倒される度に復活して本編に登場し続けているが、どうやって復活したのか、あるいは何をもって前回は倒したと判断したのかという点については明かされていない。

結果として「Xシリーズの黒幕といえばシグマ」という強烈な印象をユーザーに与えることには成功したが、同時に新規プレイヤーにとってのシグマはすっかり「何かよくわからないけど黒幕のおっさん」になってしまった。このシリーズが5以降評判を落とした理由の一つはそこにあると筆者は睨んでいる。

 即ち、シグマというキャラクターにどう決着をつけていいかわからないままシリーズのラスボスとして酷使し、結果シグマ自体をシリーズ全体の文脈を無視して突然現れる単調なキャラクターにおとしめてしまったということである。

5ならエックスとゼロの宿命の対決、6ならゲイトやハイマックスといった新キャラの掘り下げなど、これら本来描くべきものとは全く関係なくシグマは存在し続け、正直特に意味があるとは思えない執念を毎回エックスにぶつけてくる。

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もはや復活すること自体が目的になってしまった晩年の(?)シグマ。かつてのカリスマ性はどこへやら

 

 シグマをよく知るユーザーにとって毎回の復活は一種のお約束として受け入れられていたが、何も知らない新規ユーザーにとってはただただ鬱陶しいだけである。

X6でシグマはゾンビのような不完全な体で復活し、それでも執念深くエックスに襲いかかるのだが、そのシーンをプレイした筆者にはその姿が痛々しくて見ていられなかった。それは見た目がグロテスクだからではなく、シグマというキャラクターの末路としてあまりにも残酷で、朽ち果てた体を引きずるその様はまるでXシリーズそのものの姿のように思えたからである。

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ただでさえ散々な出来のX6の最後になって登場するのはゾンビのようにだらしのない姿のシグマ。

    正直ゲーム内の悪意に満ちたトラップの数々よりもこっちの方が堪えた

 

 人間とレプリロイドの共存できる世界、それこそが主人公エックスの望んだ理想の未来であり、彼らの戦いの果てに見えてくるものであるはずだった。ところが実際に展開されたのは、レプリロイドシグマの残したウイルスのなれの果てとの果ての無い泥沼の戦い、これでは新規ユーザー獲得は愚かSFC時代からの常連でも愛想を尽かしてしまうだろう。

 

 一応フォローしておくと、作り手側もその惨状を黙って見ていたわけではない。彼らはエックス、ゼロに次ぐ三人目のヒーローに、袋小路に迷い込んだシリーズの現状を打開せしめんとした*2。そうして生まれたのがアクセルというキャラクターである。

 

 <アクセルの登場>

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 アクセルはシリーズ七作目、X7になって突然現れた新キャラであるが、それまでの主役であるエックスを差し置いてパッケージのセンターを飾り、さらにゲームの内容においても、プレイヤーがエックスを操作できるようになるのはストーリーも後半に入った後であり、それまではこのアクセルとゼロのみを操作してストーリーが進行するという異例尽くしのキャラクターである。

 

 アクセルは当初ある組織を抜けて追われる身だった。組織の名は”レッドアラート”、リーダーのレッドを中心として腕に覚えのあるならず者たちが結成した自警団であり、スペースコロニーの衝突とシグマウイルスの大規模な拡散*3によって急激な勢力の縮小を余儀なくされたイレギュラーハンターに替わる対イレギュラー戦力として人々の間に浸透しつつあった。

 

 しかし、「イレギュラーに対する自衛」という組織の本来の目的はやがて形骸化し、レッドアラートのメンバーらは自らの能力をより高めたいという欲望に支配され始める。そのためならば罪なき人の命を奪うことも厭わない、アクセルが組織を抜けたのはそんな時だった。

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 逃げ出したアクセルを追って現れたイレギュラーたちに対処する内に、ゼロはその騒動の中心にアクセルを見いだし、一連の騒動の容疑者として彼をハンターベースに連行する。

 アクセルはそこで自分が組織を抜けたことでレッドアラートが放った刺客が暴れ回って周囲を破壊し、イレギュラーハンターに通報があってゼロが駆けつけたという事の顛末を理解した。元よりイレギュラーハンターに志願しようと思って組織を抜けたアクセルだったが、その第一印象は最悪といってよかった。

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            「悪いことしたみたい?

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 ハンターベースにはアクセルの憧れの英雄、エックスが待っていた。自身を巡る一連の騒動に対する贖罪の意味もこめて、アクセルは自分を正式なイレギュラーハンターとして仲間に加えてほしいとエックスに頼む。ゼロやシグナスらもまた、アクセルの言う通りレッドアラートが危険な殺し屋集団と化したことが事実なら、これを機に片をつけようと乗り気である。

 しかし、エックスはアクセルを仲間に入れる気も、レッドアラートと事を構える気も無かった。

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 誰よりも前に出て戦い、誰よりも戦果を上げたエックスだからこそ、誰よりも深く戦いのむなしさを感じてきたのであろう。度重なるシグマの復活に辟易していたのはユーザーだけではなかったということだ。

 そんなエックスの疲れ果てた心に追い打ちをかけるように、レッドアラートからイレギュラーハンターベースに通信が入る。その内容はまさにイレギュラーハンターに対する宣戦布告だった。

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 レッドはそれまで組織が鹵獲したイレギュラーを戦力として放ち、仲間たちにそれらを使って各地を占拠させた。そうしてイレギュラーハンターたちをおびき出し、真のハンターがどちらか白黒つけさせるというのである。

 こうなればアクセルを引き渡してそれでおしまい、とはいかない。ハンターベースの仲間たちとアクセルは早速活動を開始したイレギュラーたちに対処すべく連携して事にあたるが、エックスの心は未だ決まらぬままだった。

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    「なぜレプリロイド同士が傷つけ合わなければいけないんだ?

 

 以上がX7の冒頭シーンである。

 初めからエックスが使えず、いきなり登場した新キャラを操作させられることに不快感を感じるプレイヤーも当時はいたらしいが、個人的にはX6までのシグマやそれに巻き込まれた連中との不毛ともいえる戦いの連続にエックスが疲れ果てるという展開は納得がいくし、アクセルといういわば出来る後輩キャラは、エックスやゼロがすっかり古参のベテランとなったこの時期だからこそ光るキャラだと思う。

 

 つまりXシリーズは七作目にしてようやくこれまでのシリーズ展開の雑さを認めて反省し、結果世代の代わり目にふさわしい試みをいくつも盛り込んだ意欲作としてX7を完成させたのだと筆者は考える。

 

 ところが、このX7もまたファンからの評判が悪い。それはストーリーのせいではないことはすでに述べたとおりだ。

 ではなぜ評判が悪かったのか、それはこの手のアクションゲームを二分する概念の壁、即ち3Dアクションの要素が今作から加わったからだと思われる。

 

 <3Dの時代>

 PS2の時代というとゲームにおける3Dポリゴンが飛躍的な進化を遂げた時代であり、アーマードコアエースコンバットバイオハザードといった当時すでに3Dポリゴンを取り入れていたアクションゲームシリーズはもちろん、ドラゴンクエストなどの伝統的にドット絵での2D表現にこだわってきたシリーズでもグラフィックの3D化が進んだ時代である。

 そんな時代にロックマンシリーズはというと、主にエグゼやゼロシリーズといった携帯機の分野で商品展開をしていた。同じ時代でも携帯機というとまだまだドット絵での表現が一般的であり、2Dアクションに重きを置いたロックマンシリーズの取るべき道としては妥当と言えるだろう。

 そこに登場したのがこのロックマンX7という作品である。

従来の持ち味であった精巧なドット絵アニメーションをあえて捨て、時代の動きに合わせて3Dグラフィックを採用、それに応じてステージギミックなども大幅に見直し、疾走感のあるゲーム性をそのままに次世代にも通用する全く新しい作品を目指した。

 

 そして事実それは部分的に成功した。

Xシリーズを全作プレイした筆者の目から見て、少なくとも脚本の出来が一番いいのは間違いなくこのX7であるし、2Dアクションと3Dアクションを織り交ぜたゲーム構成には他にはない新鮮さが感じられた。そういうゲームの先達といえば『クラッシュバンディクー』などが有名であり、最近では『ニーアオートマタ』などがそれに当たるが、それらと並べても遜色ない個性をこの作品は持っている。

 

 しかし、悲しいかな当時のユーザーの大半は新しく生まれ変わったロックマンXを歓迎しなかった。彼らは新しい価値よりも古き良き価値を重んじ、挑戦的な試みを否定した。そんな彼らの意向をくんで生まれたのがシリーズ最終作、X8である。

 

 <そして生まれたX8>

 3D化の動きに逆らうユーザーの声を聞いてか聞かずか、最新作のX8はグラフィックこそ3Dだが操作は完全に2Dアクションそのものであり、3Dアクションパートは完全に削除された。その他細かい変更点を上げていけばきりが無いが、シリーズファンをしてシリーズ最高傑作とまで言わしめている事実を考えれば、その出来のよさは理解できる事と思う。

 

 しかし、このX8を最後にシリーズが発売されなくなった原因もまたX8にあると言わざるを得ない。否、もっと言えばファンが前作X7を否定したその時から、それは始まっていたのかもしれない。

3Dパートを無くし、X3以来音沙汰のなかったライバルキャラVAVAを再登場させ、古参ユーザーの言う通りに改良を重ねたX8は古参ユーザーには大きく受けたが、同時に古い時代の悪い癖をも受け継いでしまった。それ即ち先述した構成の甘さである。

 

 結論から言うと、X8の製作陣はせっかく前作で華やかなデビューに成功したニューヒーローアクセルを上手く扱いきることができなかった。

 

シグマウイルスへの完全な抗体を持つ新世代型レプリロイドのプロトタイプという設定が新たに加えられたが、それがなぜレッドアラートにいたのか、レプリロイドのDNAデータを元にその外見や能力をコピーするという新世代型の特長と、新たに建造された軌道エレベーターヤコブ”を用いた宇宙開発との間に一体何の関わりがあるのか、設定やストーリーに突っ込みをいれ始めたらきりがない。

例によって復活したシグマは例によって今作でも倒されるが、それにどこまで意味があるのか。ネットワークに潜伏し、いくらでも自分自身を複製・増幅できる敵の端末の一つを破壊したとて、一体それのどこが決着なのか。恐らく作った人たちにももうわからなくなっているのではなかろうか。

シグマ一人でも扱いきれていなかったところに新しい風を吹き込もうと新キャラを作ったのかもしれないが、その新しい風はあっという間によどんだ空気の一部と成り果て、更なるカオスを生んだだけであった。

 ゲームとしては確かに面白いが、シリーズの完結編と呼べるものに仕上がったかと言われれば答えはノー、それが筆者のX8の評価である。

 

 全てはX3の後でシグマがいかにして復活を遂げたのかをX4で説明することを放棄したその時から始まっていたのかもしれない。否、そもそもシグマウイルスとレプリロイドシグマの扱いをごっちゃにしたX3の時点で舵取りを誤っていたのかもしれない。

 いずれにせよ高いポテンシャルを持ちながら、それを生かすことなく世間に忘れられた傑作、ロックマンXというシリーズがあったことをこれを読んだ人が記憶に留めてくれれば幸いである。

遅ればせながらシリーズのファンになった私に言えるのはそんなことくらいだ。

 

*1:人間に限りなく近い知性をもったロボットの総称

*2:ように筆者には見えた

*3:X5で起きた事件。不思議なことにX5のどのエンディングもX6に繋がらないのだが、これらの事件はその後の作品では起きたことになっている