あるゲーマーからの手紙

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ポケモンに出てくるよくわからないトレーナー

 ポケモンシリーズではジムリーダーや四天王、悪の組織の構成員といったストーリー上必ず倒さなくてはならないトレーナーの他に様々な通りすがりの一般トレーナーが登場する。それらには必ず肩書きがついていて、例えば「たんぱんこぞう」や「ミニスカート」などはどの世代にも登場する有名所である。

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 これらモブトレーナーは世代が進むごとに逐次追加されていき、中にはその地方の特色を反映したものも現れはじめる。ジョート地方の「まいこはん」、カロス地方の「げいじゅつか」などはその典型だろう。

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 京都に舞妓がいるのはわかるし、芸術の都パリに芸術家がいるのも自然な話だろう。

しかしながらシリーズをプレイしていくと一体何をイメージして作られたのかよくわからないトレーナーが散見される。その一つが「アロマなおねえさん」である。

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 主に花畑や森などにいて草タイプのポケモンを使ってくるこのトレーナー、初登場は第三世代即ちホウエン地方である。ホウエン地方は九州をモチーフにしていることもあり、自然が豊かなことを前面に出した造りになっている。豊かな自然に囲まれていれば必然それを愛でる人がいるはずだ、ということなのかもしれないが、少年が短パンをはいていれば「たんぱんこぞう」、少女がミニスカートをはいていれば「ミニスカート」というように、果たして女性が何をしていれば「アロマなおねえさん」になるのだろう。

  いい香りにつられてふらふらとその方向に歩いて行ってしまうような浮き世離れしたお姉さん、ということだろうか。それとも単にいい香りのするお姉さん、ということだろうか。しかしそれだと自然豊かなホウエン地方というモチーフにはあまり関係がないような気がする。

 

 もう一つ、これもホウエン地方出身だが「たつじん」というトレーナーがいる。

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 格闘タイプのポケモンを好んで使い、山奥や渓谷など人里離れた場所にいることが多い。達人というよりは仙人というイメージに近い。格闘ポケモンを使うので恐らくは武道の達人なのだろうが、これもなかなかに抽象的なモチーフである。

 

 少々話は変わるが「バトルガール」というのもいた。

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  格闘ポケモンを使うトレーナーといえば「からておう」という種のトレーナーが昔からいたのだが、それらはすべて男性だった。そこで女性で格闘ポケモンを使うキャラを作りたかったのだろうが、からておうの肩書をそのままに女のキャラを新設することはあえてせず、「バトルガール」という種を新たに追加したことには一体どのような意図があったのだろう。

ちなみに「バトルボーイ」というトレーナーは存在しない。また先述の「たつじん」には男女のバリエーションがあり、どちらも胴着姿の老人として描かれている。

 思うに、ポケモンのキャラクターデザイン担当者は「からておう」の女性というものを想像しえなかった、もしくはデザインには成功したが採用されなかったのかもしれない。求めるキャラクター像はあくまで「格闘ができる女の子」であって「女の格闘家」ではなかったのだろう。個人的には格闘を極めたストイックな女性トレーナーというのも絵になると思うのだが、今のところその路線は開拓されていないようだ。

 

 そして極めつけはやはり「りかけいのおとこ」だろう。

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 理系学生に対する差別と偏見に満ちたデザインのこのトレーナー、なんと初代から登場している古株である。むしろ昔だから許された表現ともいえよう、その後はリメイク版を除いて再登場はかなっていない。

 漫画『ポケットモンスターspecial』においては四天王キクコの尖兵として2章の主人公イエローの前に立ちふさがる。

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前章の主人公レッドになりすまして彼のピカチュウを誘拐、タマムシジムのリーダーエリカに暴行を加え逃走、追いかけてきたイエローを骨ブーメランで闇討ちするなど、とても元ネタがモブトレーナーとは思えない悪役ぶりで非道の限りをつくす。

  作者は理科系の男に何か恨みかトラウマでもあるのだろうかと思えるが、一応フォローしておくと四天王キクコが彼に与えたのはイエローに関する情報だけであり、犯行計画、事前準備などは全て彼自身の手によるものである。犯罪者として生きるには実直に生きるよりもはるかに優れた才能が必要というが、まさに彼はその点で才能人であったといえよう。

彼はかつて危険思想の持ち主として大学を追放された過去をもつらしいが、単に思想が危険なだけではただのほら吹きである。やはりそこに才能故の実行性があったからこそ彼は追放されたのだろう。

 かつてこの国で最も恐ろしいテロ事件を起こした某宗教団体に帰依した人々はこの「りかけいのおとこ」のような才能ある孤独な人間であったという。本当に憎むべきは「りかけいのおとこ」ではなく彼を孤独たらしめたもの、即ち彼の傲慢さそのものであり、そしてそんな彼の心の闇につけこんで欺き利用した人物なのかもしれない。